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「空き家バンクに出せば、無料で売れるんですよね?」。仲介の窓口で、相続した実家を持て余しているお客様から何度も聞かれた質問です。答えは「売れる物件もあるし、何年も載ったままの物件もある」。これが現場の実感です。
僕の実家も築50年を超えた木造で、売るか残すかを家族と話し合っている最中で、実家のある自治体の空き家バンクの要綱も一通り読みました。
この記事では、空き家バンクと全国版(LIFULL HOME’S空き家バンク)の仕組み、登録の流れ、国土交通省が公表している成約の数字、「載せたけど売れない」物件に共通する条件を、売買の仲介の現場で見てきた現実込みで書きます。
数字は2026年9月時点の国土交通省・LIFULLの公開資料をもとにしています。自治体ごとの制度は要綱で異なるため、必ず物件所在地の自治体窓口で確認してください。税務・法務の個別判断は税理士・司法書士等にご相談ください。
先に結論
- 空き家バンクは「自治体が運営する無料の掲示板」。自治体は仲介をせず、価格も決めてくれない。売れるかどうかは、物件の条件と、自治体が地元の不動産会社と組んでいるかでほぼ決まる。
- 国交省の集計では全国版バンクの累計成約は約27,000件(2026年8月末)。数字は伸びているが、1自治体あたりにならすと年に数件。掲載=売れる、ではない。
- 向いているのは「価格数百万円以下・移住需要のある地域・すぐ住める状態」の3条件がそろう家。1つでも欠けると、通常の仲介や買取のほうが早い。
- 僕なら通常売却の査定と空き家バンクを並行する。相場を先に取ると、バンクに載せる価格を間違えなくなる。
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空き家バンクとは。自治体版と全国版(LIFULL HOME’S)の関係
空き家バンクは、市町村が運営する空き家の情報サイトです。売りたい・貸したい所有者が自治体に登録し、移住希望者などが閲覧する。掲載は無料で、自治体は営利目的ではありません。国交省の令和元年度調査では、全国の約7割の自治体が設置済みです。
ただ、自治体ごとにサイトがばらばらで、探す側が横断して見られなかった。そこで国交省が2018年4月から本格運用を始めたのが「全国版空き家・空き地バンク」で、公募で選ばれたLIFULLとアットホームの2社が運営しています。LIFULL HOME’S空き家バンクはその一つ、つまり国のモデル事業です。
| 項目 | 自治体の空き家バンク | 全国版(LIFULL HOME’S空き家バンク) | 通常の売却(仲介) |
|---|---|---|---|
| 運営 | 市町村 | LIFULL(国交省の公募事業者) | 不動産会社 |
| 掲載の主体 | 所有者が自治体に申請 | 自治体が掲載。所有者は直接登録できない | 媒介契約を結んだ会社 |
| 掲載費用 | 無料 | 無料 | 無料(成約時に仲介手数料) |
| 閲覧者 | その町に関心がある人 | 全国の移住・二地域居住希望者 | 一般の買主・投資家 |
| 価格の決め方 | 所有者が決める | 所有者が決める | 査定をもとに会社と相談 |
| 契約 | 自治体は関与しない | 自治体は関与しない | 会社が重要事項説明・契約書作成 |
押さえてほしいのは2点。第一に、LIFULL HOME’S空き家バンクに所有者が直接登録する窓口はありません。自治体のバンクに登録し、その自治体が全国版に参加していて、所有者が全国版への掲載に同意して初めて載ります(国交省Q&Aに「利用者の同意が必要」と明記)。第二に、自治体は情報を載せるだけで、価格交渉も契約書も作りません。ここが仲介との決定的な違いで、後述するリスクの源です。
🔢 数字メモ|参画率は県で5倍違う
全国版バンクへの市区町村の参画率は全国平均65.3%だが、福井県・大分県は100%、東京都19.4%、大阪府27.8%、沖縄県12.2%(国土交通省「都道府県別 全国版空き家・空き地バンク参画率」2026年8月末)。都市部の実家は、そもそも自治体が参加していないことがある。
登録の流れと条件。自治体は3つのタイプに分かれる
登録の手順は、どの自治体でもおおむね次の5ステップです。
| ステップ | 内容 | 所要の目安 | つまずきやすい点 |
|---|---|---|---|
| 1. 事前相談 | 自治体の担当課(都市整備課・移住定住課など)に連絡 | 即日〜1週間 | 担当課名が自治体で違う。「空き家バンク+自治体名」で検索 |
| 2. 申請書類の提出 | 登録申込書、登記事項証明書、写真、固定資産税の資料など | 1〜3週間 | 相続登記が済んでいないと申請できない |
| 3. 現地確認 | 職員または協力不動産会社が現地調査 | 1〜4週間 | 家財が残ったままだと「掲載不可」になる自治体が多い |
| 4. 登録・公開 | 自治体サイトに掲載。同意すれば全国版にも | 数日〜数週間 | 全国版への同意欄を見落とす |
| 5. 問い合わせ〜契約 | 内覧案内、交渉、契約 | 数か月〜数年 | 自治体は交渉に入らない。ここで止まる |
所要は自治体の体制で変わります。担当者が他の業務と兼務している町では、申請から掲載まで2か月かかることも珍しくありません。そして、登録条件でいちばん差が出るのが「不動産会社との関係」です。
| タイプ | 仕組み | 例 | 所有者から見た特徴 |
|---|---|---|---|
| A. 自治体直営型 | 自治体が情報提供のみ。契約は個人間 | 小規模町村に多い | 手数料ゼロ。ただし契約書・重要事項説明は自己責任 |
| B. 宅建業者必須型 | 地元の宅建業者と媒介契約を結ぶことが登録条件 | 秋田市など | 通常の仲介と同じ安心感。成約時は仲介手数料が発生 |
| C. 協力業者紹介型 | 登録は自治体、契約段階で協力業者を紹介 | 宅建協会と協定を結ぶ自治体 | 手数料は契約時のみ。業者の温度差あり |
秋田市は「宅地建物取引業者に媒介を依頼する契約を締結していること」を登録条件にしています。逆に、媒介契約中の物件は原則登録できない自治体も多い。同じ「空き家バンク」でも中身が正反対なので、自分の自治体がどのタイプかを最初に確認するのが第一歩です。
📝 現場メモ|窓口で聞く3つのこと
電話で確認するのは「①契約に協力不動産会社が入るか」「②不動産会社に一般媒介で依頼中でも登録できるか」「③直近1年の成約件数」。③を即答できる自治体は運用が回っている。答えに詰まる自治体では、掲載後の動きも鈍いことが多い。
本当に売れるのか。国交省の数字と、現場で見た「載ったまま」の物件
国交省は全国版バンクの実績を定期的に公表しています。推移を並べます。
| 時点 | 参加自治体数 | 掲載物件数 | 累計成約件数 |
|---|---|---|---|
| 2019年3月 | 603 | 延べ9,000件超 | 1,900件超 |
| 2024年2月末 | 1,030 | 14,248件 | 約16,500件 |
| 2026年8月末 | 1,151(うち掲載中744) | 19,804件(2社合計・重複あり) | 約27,000件 |
出典:国土交通省「『全国版空き家・空き地バンク』について」各時点。成約件数は自治体へのアンケート調査等による集計。
累計27,000件は立派な数字です。ただ、仲介の人間として割り算をします。2024年2月末から2026年8月末までの30か月で成約は約10,500件増えた。年にならすと約4,200件。掲載している自治体は744なので、1自治体あたり年5〜6件です。掲載中の物件が2万件弱あることを考えると、載っている物件の大半はその年には動いていない、と読むのが自然です。
自治体側もそれを認めています。国交省の1,450自治体調査では、空き家バンクの課題として「登録物件数が少ない」が約7割、次いで「登録物件と利用希望者のニーズが合っていない」が挙がっています(国交省「不動産業による空き家対策推進プログラム 参考資料」2024年6月)。
なぜ載ったまま動かないのか。LIFULLが自治体169団体に行った実態調査(令和4年度)の自由記述に、答えがそのまま書かれていました。「仲介業者を介していないため、売却金額が高めに設定され、なかなかマッチングしない」。自治体は価格を決めてくれないので、所有者が思い出込みの値段をつけ、誰も「高いですよ」と言わない。これが僕が見てきた「載ったまま」の物件の、ほぼ唯一の共通点です。
もう一つの現実が0円物件です。東京都奥多摩町や富山県上市町のように「0円空き家バンク」を設ける自治体が出てきました(各町の公表資料・報道)。売り手から見れば、同じ町の中で0円の家と競争するということ。値付けを間違えた物件は、まず勝てません。
⚠️ 失敗メモ|個人間契約で雨漏りが出た例
自治体直営型で個人間契約をした売主が、引き渡し後に「雨漏りを聞いていない」と買主から補修費を求められた例を見た。契約書に契約不適合責任の免責条項がなく、告知書もなかった。個人間で契約するなら、最低でも司法書士か協力業者に契約書と告知書の確認を頼むこと。
向いている物件、向いていない物件
現場感覚と、LIFULL調査で自治体が挙げた「掲載に至らない理由」(家財、相続未了、接道や土地利用の制限、建物の状態)を合わせて、判断表にしました。
| 条件 | 空き家バンク向き | 通常売却・買取向き |
|---|---|---|
| 想定価格 | 数百万円以下(仲介会社が動きにくい価格帯) | 1,000万円以上(仲介会社が積極的に動く) |
| 立地 | 移住・二地域居住の需要がある地方。農地付き、海や山が近い | 都市部・駅近。自治体が全国版に未参加のことも多い |
| 建物の状態 | 手直しすれば住める。水回りが生きている | 大規模修繕が必要(買取や解体前提のほうが早い) |
| 家財 | 撤去済み、または撤去の目処がある | 残置物が大量(先に片付け費用を見る) |
| 権利関係 | 相続登記済み、共有者全員が売却に同意 | 共有者が反対、境界未確定 |
| 売主の時間 | 1〜2年待てる | 3,000万円控除の期限が迫っている、固定資産税を止めたい |
僕の実家に当てはめると、築50年超で敷地250㎡、家族が「残したい」段階。仮に売ると決めても、まず通常の査定で「いくらなら動くか」を見るのが先。空き家バンクは、査定額が低くて仲介会社の動きが鈍いと分かってから、という順番です。
売る決心がつかない人に一つ補足します。空き家バンクは「貸したい」でも登録できる自治体が大半で、賃貸で載せて様子を見る手はあります。ただし、残す・貸すを選ぶ間も費用は止まりません。固定資産税に加えて、遠方なら空き家管理サービスが月5,000〜15,000円、「郵便局の空き家みまもり」でも月額4,280円。年に10万円前後が「残す代金」として出ていく計算です。残す・貸す・売るを費用で並べて決めたい人は、関連記事の「相続した空き家はどうする?」で5つの選択肢を比べてください。
📖 用語メモ|媒介契約の3種類
不動産会社に売却を依頼する契約は、専属専任媒介・専任媒介・一般媒介の3種類。前2つは1社に絞る契約で、他社や自分で見つけた買主との契約に制限がある。一般媒介は複数社に同時に頼め、自分で買主を見つけて契約することもできる。空き家バンクと併用するなら一般媒介が前提になる。
「空き家バンクと通常売却を並行する」戦略
「空き家バンクに載せたから、不動産会社には頼まない」という所有者を何人も見てきました。もったいない。両方に載せれば、買い手の母数が単純に増えます。
| 順番 | やること | 狙い |
|---|---|---|
| 1 | 匿名の一括査定で相場を取る(2〜3社の根拠を比べる) | バンクに載せる価格の「上限」を知る |
| 2 | 自治体窓口に、一般媒介で依頼中でも登録できるか確認 | Bタイプ・Cタイプなら業者経由で登録できる |
| 3 | 一般媒介で1〜2社に依頼し、同時に空き家バンクに登録 | 地元需要と移住需要の両方に当てる |
| 4 | 3か月ごとに問い合わせ数を確認。ゼロなら価格を見直す | 「載ったまま」を防ぐ |
| 5 | 半年動かなければ、買取業者の査定も取る | 出口を確保する |
仲介会社の側にも、動く理由が増えました。2024年7月から、800万円以下の「低廉な空家等」の仲介手数料の上限が引き上げられています。以前は数百万円の家の手数料が十数万円で、正直、会社として動きにくかった。いまは地方の築古でも「一般媒介で受けます」という会社が増えています。手数料が上がる代わりに、写真・図面・広告を出してくれるかは契約前に確認してください。
🔢 数字メモ|低廉空き家の仲介手数料
物件価格800万円以下の宅地・建物は、売主・買主それぞれから最大33万円(税込)まで報酬を受け取れる特例が2024年7月1日施行(国土交通省告示の改正)。通常の上限(400万円超で3%+6万円+税)を超えるため、媒介契約時の事前合意が条件。
補助金との組み合わせ。買い手の背中を押す材料になる
空き家バンクの強みは、自治体の補助金が「バンク登録物件」を条件にしていることが多い点です。所有者が直接もらえる補助は少ないですが、買い手が使える補助は売れやすさに直結します。
| 補助の種類 | 誰がもらうか | 例(2025年度) | 売主側の使い方 |
|---|---|---|---|
| 改修補助(移住者向け) | 買主・借主 | 北海道厚真町:改修費の1/3、上限100万円(バンク登録物件が条件) | 掲載文に「町の改修補助の対象」と書く |
| 改修補助(都市部) | 買主 | 福岡市:1/2以内、上限50万円。子育て世帯加算あり | 同上 |
| 家財処分・清掃補助 | 所有者 | 自治体により上限5万〜20万円程度(設けていない自治体も多い。要綱で確認) | 残置物撤去のハードルを下げる |
| 解体補助 | 所有者 | 補助率1/3〜1/2、上限50万〜150万円、着工前申請 | 建物が古すぎるなら土地として出す |
金額は自治体と年度で変わるので、申請前に最新の要綱を確認してください。仲介として一言添えると、補助金は「買い手が最後に迷ったときの一押し」であって、値付けの失敗を取り返す道具ではありません。上限100万円の改修補助があっても、相場より300万円高ければ動きません。
僕が使っているサービス。まず相場を取る
並行戦略の1番目「相場を取る」で僕が使っているのがLIFULL HOME’Sの不動産売却査定です。仕事でLIFULLさんと一緒になることが多く、仕組みが分かっているので正直に書きます。
良い点
- 匿名で査定依頼ができる。 バンクに載せる前の値付けの材料として、名前を出さずに相場感が取れる
- 提携約1,700社、最大6社まで同時依頼。地方は大手より地元会社が強く、LIFULLは地元会社の登録が充実している
- 連絡方法を電話・メール・郵送から選べる。「メール希望」にすれば電話攻勢は避けられる
気をつける点
- 大手不動産会社の登録は少なめ。大手の査定も欲しい場合は別途依頼する
- 会社によって対応の速さにばらつきがある。連絡が来ない会社は候補から外せばよい
- 査定額が高い会社が良い会社とは限らない。根拠を説明できる会社を選ぶ。バンクに載せる価格の上限を決めるなら、なおさら根拠が要る
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▼ 自治体の空き家バンクを横断して探す・自分の自治体が参加しているか確認する
よくある質問
Q. 空き家バンクの成約率はどれくらいですか?
A. 全国一律の成約率は公表されていません。国交省が公表しているのは累計成約件数(2026年8月末で約27,000件)で、自治体ごとの差が非常に大きい。参加していても掲載ゼロの自治体が400以上あります。自分の自治体の直近の成約件数を窓口で聞くのが一番確実です。
Q. 空き家バンクに出すと、不動産会社に頼めなくなりますか?
A. 自治体によります。媒介契約中は登録不可とする自治体もあれば、媒介契約を登録条件にする自治体(秋田市など)もあります。一般媒介なら併用できる自治体が多いので、登録前に窓口で確認してください。
Q. 掲載費用や成約時の費用はかかりますか?
A. 掲載は無料です。個人間で契約すれば仲介手数料もかかりませんが、契約書と重要事項説明は自己責任になります。協力不動産会社を通す場合は、通常の仲介手数料(800万円以下なら上限33万円の特例あり)がかかります。
Q. 相続登記がまだですが登録できますか?
A. ほとんどの自治体で、登記事項証明書で所有者を確認するため、相続登記が済んでいないと登録できません。相続登記は2024年4月1日から義務化され、相続を知った日から3年以内に行わないと10万円以下の過料の対象です。2024年3月以前に相続した分も2027年3月31日が期限です。先に登記を済ませてください。
まとめ
- 空き家バンクは「自治体が運営する無料の掲示板」。価格も契約も所有者の責任。LIFULL HOME’S空き家バンクは国交省の全国版で、自治体経由・所有者の同意があって初めて載る。
- 累計成約約27,000件は本当だが、1自治体あたり年5〜6件。載ったまま動かない物件の共通点は「仲介を通さない値付け」。
- 向いているのは、数百万円以下・移住需要のある地方・すぐ住める、の3条件がそろう家。
- 僕なら、匿名査定で相場を取ってから一般媒介と空き家バンクを並行させ、3か月ごとに問い合わせ数を見て価格を見直す。補助金は一押しになるが、値付けの失敗は取り返せない。
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