結論:安さの代わりに「入れる人が限られる」「住み方に承認が要る」のが公的賃貸です
県営・市営住宅(公営住宅)、公社住宅、UR賃貸住宅。この3つはまとめて「公的賃貸」と呼ばれますが、根拠となる法律も、入れる人の条件も別物です。デメリットを一言でまとめるなら、次のようになります。
- 公営住宅(県営・市営)…家賃は最も安いが、収入に上限がある。公募・選考が原則で、いつでも申し込めるわけではない。模様替えや同居人の追加に事業主体の承認が要る。収入が増えれば家賃も上がり、一定を超えると明渡しの努力義務が生じる
- 公社住宅…公営住宅ではないので収入の上限はない。ただし公社は都道府県・政令市ごとに別法人で、基準も手続もばらばら。物件のある地域にしか選択肢がない
- UR賃貸住宅…収入は上限ではなく下限で見られる。礼金・仲介手数料・更新料・保証人が不要な代わりに、基準月収額か基準貯蓄額を満たす必要がある
以下、条文と公的な資料にもとづいて整理します。ただし先に強く断っておきます。公営住宅の収入基準・募集方法・保証人の扱いは、各自治体の条例で決まります。国の法律は枠を決めているだけで、実際の数字は自治体により異なります。この記事に出てくる国の基準額を、そのままご自身の自治体の基準だと思わないでください。申し込む前に必ず、お住まいの自治体の募集要項を確認してください。
前提の整理:公的賃貸は4種類。根拠法が違う
| 種類 | 事業主体 | 根拠 | 収入の見られ方 | 募集のしかた |
|---|---|---|---|---|
| 公営住宅(県営・市営・町営) | 都道府県・市町村 | 公営住宅法 | 上限あり。「住宅に困窮する低額所得者」が対象(同法1条) | 公募が原則(22条)。申込者が戸数を超えれば条例に従い選考(25条) |
| 公社住宅 | 地方住宅供給公社(都道府県・政令市ごとの別法人) | 地方住宅供給公社法 | 公営住宅法の低額所得者要件は適用されない | 公社ごとに随時・定期の募集 |
| UR賃貸住宅 | 独立行政法人都市再生機構 | 都市再生機構法 | 下限。基準月収額または基準貯蓄額を満たすこと | 空室があれば随時。人気住宅は抽選 |
| 地域優良賃貸住宅 | 民間事業者・公社等(自治体が助成) | 国の助成制度 | 対象世帯の要件を自治体の裁量で設定 | 自治体・事業者ごと |
混同されやすい点を2つ補足します。
①公社住宅は公営住宅ではありません。地方住宅供給公社法21条3項1号により、公社は住宅の建設・賃貸・管理・譲渡を行えます。公営住宅法の収入上限は公社の一般賃貸住宅には及びません。ただし、公社が自治体から公営住宅の管理を受託している場合があるため、窓口が同じで混同されやすい。「これは公営住宅ですか、公社の賃貸住宅ですか」と聞き分けてください。
②「特優賃」は現在の制度名ではありません。特定優良賃貸住宅と高齢者向け優良賃貸住宅は平成19年に地域優良賃貸住宅へ再編されています(国土交通省「地域優良賃貸住宅」。2026年9月20日確認)。既存の特優賃住宅が今も管理・募集されていることはありますが、制度として新しく探すなら「地域優良賃貸住宅」で調べるのが正しい入口です。
公営住宅の申込条件と抽選の仕組み
公営住宅法23条は、入居者の条件を2つ定めています(e-Gov法令検索で2026年9月20日に現行条文を確認)。
- 収入が、事業主体が条例で定める金額を超えないこと
- 現に住宅に困窮していることが明らかであること
重要なのは「条例で定める」という書き方です。国の政令が示しているのはその上限と、参酌すべき基準にすぎません。公営住宅法施行令6条は、一般の世帯について参酌すべき金額を月額158,000円、高齢者世帯や障害のある方など条例で定める場合の上限を月額259,000円としています。これは国が定める枠であって、お住まいの自治体の基準そのものではありません。
もうひとつ、つまずきやすいのが「収入」の意味です。公営住宅法施行令1条3号でいう収入は、額面の月給ではありません。世帯全員の過去1年間の所得金額を合計し、給与所得者・公的年金等受給者1人につき10万円、同居者や扶養親族1人につき38万円などを控除したうえで、12で割った額です。一般に「政令月収」と呼ばれます。手取りでも額面でもない独自の計算なので、自分で概算せず、募集要項の早見表か窓口で確認してください。
募集については、公営住宅法22条が公募を原則としています(災害、不良住宅の撤去、借上げ契約の終了など政令で定める特別の事由がある場合を除く)。そして25条は、申込者の数が戸数を超えるときは「政令で定める選考基準に従い、条例で定めるところにより、公正な方法で選考」すると定めています。抽選になるのか、困窮度に応じたポイント方式になるのかは自治体の条例次第です。年に何回募集があるかも自治体により異なります。
デメリットは「住み方の制約」と「収入が上がったとき」に出る
設備や築年数の古さはよく語られますが、実際に住むうえで本当に効くのは次の点です。いずれも公営住宅法に書かれている、制度としてのデメリットです。
| デメリット | 根拠 | 実際に何が起きるか |
|---|---|---|
| 模様替え・増築ができない | 公営住宅法27条4項(事業主体の承認があれば可) | エアコンの増設や棚の設置で申請が必要になる場合がある。民間より手続が重い |
| 同居人を増やすのに承認が要る | 同27条5項 | 結婚・親の呼び寄せのたびに手続。無断で同居させると明渡請求の事由になりうる |
| 又貸し・権利の譲渡は不可 | 同27条2項 | 長期不在でも他人に使わせられない |
| 収入が増えると家賃が上がる | 同法16条・28条2項、施行令2条 | 家賃は収入区分に応じた「家賃算定基礎額」に立地・規模・経過年数・利便性の係数を掛けて決まる。毎年の収入申告が必要 |
| 収入超過で明渡しの努力義務 | 同28条1項 | 引き続き3年以上入居し、政令の基準を超える収入があるときは「明け渡すように努めなければならない」 |
| 滞納3か月で明渡請求の対象 | 同32条1項2号 | 民間より事由が明文化されている |
| 入居者が亡くなった後の継続居住も承認制 | 同27条6項 | 同居していた家族が自動的に引き継ぐわけではない |
相談として多いのは「収入が上がると家賃が上がる」という点です。公営住宅の家賃は相場で決まるのではなく、収入区分ごとの家賃算定基礎額に、立地係数・規模係数・経過年数係数・利便性係数を掛けて算出すると施行令2条が定めています。制度として、収入が増えれば家賃も上がるようにできている。昇給や配偶者の就職で負担が変わりうる点は、入る前に理解しておく必要があります。
設備面のデメリット(エレベーターがない、浴室が古い、断熱が弱いなど)は団地全般に共通する話です。実物の様子は団地のメリット・デメリットを表で比較|向く人・向かない人と、当サイトのUR賃貸住宅の内見動画48物件で確認してください。写真と間取り図だけでは伝わらない部分が多い住宅です。
民間の貸主から見た、公的賃貸の強さと弱さ
民間で部屋を貸している側として、公的賃貸は手強い相手です。とくにURは礼金・仲介手数料・更新料・保証人が要らないという一点で、初期費用の比較になると勝てません。同じ条件を出そうとすると家賃を下げるしかない。公的賃貸の存在は、地域の家賃の下支えとして確実に効いています。
ただし弱さもはっきりしています。民間の貸主が持っている裁量が、公的賃貸にはありません。
- 融通が利かない。民間なら「エアコンを1台付けるので決めてください」「入居日を2週間ずらします」といった判断をその場でできます。公的賃貸は条例と規程で動くので、担当者に裁量がない
- 選べない。公営住宅は公募と選考が原則なので、「この部屋がいいから今すぐ申し込む」ができないことがあります。民間の最大の強みは、気に入った部屋にその日のうちに申し込める点です
- 収入が増えると不利になる。民間は収入が増えて困ることはありませんが、公営住宅は家賃が上がり、明渡しの努力義務まである。長く住んで生活が上向いたときに、制度のほうが先に動く
だから私は、相談されたときにこう答えています。収入が安定して上がっていく見込みがあるなら公社かURか民間、いまの収入で家賃負担を下げることが最優先なら公営住宅を狙いつつ民間も並行して探す。公営住宅は当選するまで待つ性質のものなので、「受かったら移る」という構えで、住む場所は先に確保しておくのが現実的です。
落ちたとき・条件に合わないときの選択肢
- 公社住宅を調べる。公営住宅の収入上限を超えていても申し込めます。東京都住宅供給公社の一般賃貸住宅を例にすると、収入の審査は「月収額による審査」と「貯蓄額による審査」(満60歳以上が対象)があり、保証会社を利用する場合は公社の収入審査が不要とされています(JKK東京「申込資格・必要書類」2026年9月20日確認)。これは東京都の公社の例で、公社ごとに扱いが違います
- URを検討する。収入は下限で見られるため、公営住宅の上限を超える人でも対象になります。世帯で家賃82,500円未満なら基準月収額は家賃額の4倍、基準貯蓄額は家賃額の100倍(UR都市機構「お申込み資格」2026年9月20日確認。金額は改定されうるので公式で最新値を確認してください)
- 地域優良賃貸住宅を調べる。子育て世帯・高齢者世帯などを対象に、整備費や家賃の低廉化に助成が行われる制度です。対象とする世帯の要件は自治体の裁量で設定されるため、自治体の住宅課に問い合わせるのが確実です
- 民間で初期費用の低い物件を探す。礼金ゼロ・フリーレント付きの物件を総額で比べると、公的賃貸との差が思ったより小さいことがあります
URの申込資格と抽選の実務はUR賃貸の審査と申込資格|収入基準に届かないときの選択肢と抽選の仕組み、家賃を下げる制度はUR賃貸の家賃が下がる制度7つを比較にまとめています。URは団地だけではないので、物件の幅はUR賃貸は団地だけじゃない|物件タイプ別の選び方も見てください。
向く人・向かない人
| 向く人 | 向かない人 |
|---|---|
| いまの収入で家賃負担をできるだけ下げたい | 数年で収入が大きく増える見込みがある |
| 同じ地域に長く住むつもりがある | 転勤や転職で住む場所が変わる |
| 入居の時期を待てる(公営住宅は選考がある) | 来月までに必ず引っ越す必要がある |
| 設備の古さより広さと家賃を優先する | 設備の新しさ・デザインを重視する |
| 保証人を立てられない(URは保証人不要) | 模様替えやDIYを自由にやりたい |
| 自治会や近隣づきあいに抵抗がない | 近所づきあいを最小限にしたい |
よくある質問
県営住宅と市営住宅はどちらが入りやすいですか
どちらも公営住宅法にもとづく住宅で、違いは事業主体が都道府県か市町村かという点です。入居基準も選考方法も募集回数も、それぞれの条例で定められているため、一般論として「こちらが入りやすい」とは言えません。同じ市内でも県営と市営で基準が違うことがあります。両方の募集要項を取り寄せて比べてください。
公営住宅に保証人は必要ですか
自治体により異なります。近年、保証人の確保が難しい人のために保証人要件を緩和・廃止した自治体もあれば、引き続き求めている自治体もあります。これは条例と運用の問題なので、募集要項の該当欄を読むか、窓口に直接確認してください。なお、UR賃貸住宅は保証人も保証会社も不要です。
収入が増えたら必ず出ていかなければいけませんか
公営住宅法28条1項は、引き続き3年以上入居していて政令で定める基準を超える収入がある場合に「明け渡すように努めなければならない」と定めています。これは努力義務という書き方です。ただし同条2項により、住み続ける場合の家賃は近傍同種の住宅の家賃以下で事業主体が定めることになり、負担は上がります。実際にどの段階でどう扱われるかは自治体の運用によるので、収入が基準に近づいてきたら早めに窓口へ相談してください。
「特優賃」という言葉を見かけますが、いま申し込めますか
特定優良賃貸住宅と高齢者向け優良賃貸住宅は、平成19年に地域優良賃貸住宅へ再編されています。既存の特優賃住宅の募集が残っている地域もありますが、制度として新しく探すなら「地域優良賃貸住宅」が現在の名称です。自治体の住宅課のページで、どちらの名前で案内されているかを確認してください。
まとめ
- 公営住宅(県営・市営)は「住宅に困窮する低額所得者」が対象で、収入に上限がある(公営住宅法1条・23条)。公社住宅とURには、この上限はない
- 収入基準・募集方法・保証人の扱いは各自治体の条例で決まる。国の政令は枠と参酌基準を示すだけ。必ず自分の自治体の募集要項で確認する
- デメリットは設備の古さより、模様替え・同居の承認制、収入が増えると家賃が上がる仕組み、収入超過時の明渡し努力義務(27条・28条・施行令2条)
- 「特優賃」は平成19年に地域優良賃貸住宅へ再編済み。現行の名称で調べる
- 落ちたとき・条件に合わないときは、公社住宅・UR・地域優良賃貸住宅・民間の初期費用の低い物件を並行して比べる
公的賃貸は、制度が自治体ごとに違い、改正も入ります。この記事は2026年9月20日時点の条文と公表資料にもとづく一般的な説明です。最終的な判断は、お住まいの自治体の募集要項と窓口、またはUR・公社の公式情報で確認してください。
参照した条文・出典(2026年9月20日確認):公営住宅法1条・22条・23条・25条・27条・28条・32条/公営住宅法施行令1条3号・2条・6条/地方住宅供給公社法1条・21条(いずれもe-Gov法令検索)/国土交通省「地域優良賃貸住宅」/UR都市機構「お申込み資格」/東京都住宅供給公社(JKK東京)「申込資格・必要書類」