結論:遅れた日に自分から連絡すれば、たいていの滞納はそこで止まります
家賃が払えない、あるいはすでに遅れている。その状態で最初にやることは、払えないと分かった時点で、管理会社(保証会社から連絡が来ているならそちらにも)に自分から電話を入れることです。「いつ、いくら払えるか」を伝えるだけでいい。これをやるかやらないかで、その後の進み方がはっきり変わります。
もうひとつ知っておいてほしいことがあります。家賃を滞納したからといって、貸主(大家)や管理会社が勝手に鍵を交換したり、荷物を運び出したりすることは認められていません。明け渡してもらうには、契約を解除したうえで裁判所の手続を経る必要があります。だからこそ、慌てて連絡を絶つより、事情を伝えて分割や猶予を相談したほうが、結果として残れる可能性が高くなります。
収入が落ちて払えない状態が続きそうなら、家賃を支える公的な制度もあります。生活困窮者自立支援法にもとづく住居確保給付金で、窓口は各自治体の自立相談支援機関です(厚生労働省の生活支援特設サイトから検索できます)。要件と支給期間は改正で変わるため、金額はここに書きません。使えるかどうかは窓口で確認してください。
前提の整理:家賃は「いつから」滞納になるのか
民法614条は、建物の賃料は「毎月末に」支払うと定めています。ただしこれは取決めがない場合の規定で、実際の居住用賃貸はほぼすべて翌月分を前月末までに払う「前払い」です。自分の支払日は契約書の賃料の条項で確認してください。支払日を1日過ぎれば法律上はその時点で履行遅滞ですが、実務の動き方は「何日遅れたか」ではなく「連絡が取れているか」で変わります。ここが誤解されやすいところです。
もうひとつ、誰から連絡が来るのか。家賃の入金管理をしているのは多くの場合が管理会社です。賃貸住宅の管理業務には「家賃、敷金、共益費その他の金銭の管理を行う業務」が含まれ(賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律2条2項2号)、事業の規模が国土交通省令で定める規模(管理戸数200戸)以上の管理業者は、国土交通大臣の登録を受ける義務があります(同法3条1項)。家賃債務保証会社を使う契約なら、督促は保証会社から来ることもあります。
滞納から明渡しまでに、何が、どの順で起きるか
下の表は、貸主・管理会社が動く順番を時系列に並べたものです。日数は目安で、法律で決まった数字ではありません。管理会社の方針、保証会社の有無、連絡が取れているかどうかで前後します。
| 段階 | おおよその時期 | 起きること | この時点でできること |
|---|---|---|---|
| 初期の督促 | 支払日の翌日〜1週間 | 管理会社または保証会社からメール・電話・SMS。多くは事務的な入金確認 | 折り返して入金予定日を伝える。ここで止まる滞納がいちばん多い |
| 保証会社の代位弁済 | 数日〜1か月程度 | 保証会社が貸主に家賃を立て替える。以後の請求は保証会社から | 保証会社に分割の相談をする。放置すると求償の話に進む |
| 書面での催告 | 1〜2か月 | 内容証明などで「期限までに支払うこと」を求める書面が届く | 受け取ったら必ず開封し、期限内に連絡する。無視がいちばん不利 |
| 契約の解除 | 2〜3か月以上 | 催告した期間内に支払いがないと、解除の意思表示がされる(民法541条) | 解除の通知が来たら、その時点で専門の相談窓口へ |
| 明渡しの訴訟 | 解除後、数か月 | 建物明渡請求訴訟。判決または和解で明渡しの期日が決まる | 裁判所からの書類は必ず受け取る。和解で分割・猶予になる例もある |
| 強制執行 | 判決の確定後 | 裁判所の執行官による明渡しの強制執行 | ここに至る前の各段階に、止める機会がある |
契約を解除するには、原則として相当の期間を定めて支払いを催告し、その期間内に支払いがないことが必要です(民法541条)。同条には、不履行が「その契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない」というただし書もあります。さらに建物賃貸借では、貸主と借主の信頼関係が壊れたと言えなければ解除は認められにくいという考え方が、裁判の積み重ねで定着しています。これは判例で形づくられた考え方であって、「3か月で解除できる」と書いた条文があるわけではありません。
保証会社が立て替えたあと、どうなるのか
保証会社が付いている契約では、滞納が起きると保証会社が貸主に家賃を立て替えます(代位弁済)。このとき、あなたの支払い義務が消えるわけではありません。立て替えた分は保証会社があなたに請求します(求償)。請求先が管理会社から保証会社に変わるだけです。保証料を払うのは借主でも、保証会社が守っているのは貸主の債権だ、という構造を押さえておくと話が早くなります。仕組みは賃貸保証会社とはに書きました。
保証会社の側にも、やってはいけないことがあります。2022年(令和4年)12月12日の最高裁第一小法廷判決で、家賃債務保証会社の契約条項のうち「賃料3か月分以上の滞納があれば無催告で賃貸借契約を解除できる」とするものと、「連絡が取れず相当期間利用していないなどの事情があれば明渡しがあったものとみなす」とするものが、いずれも消費者契約法10条の「消費者の利益を一方的に害する条項」に当たるとされ、その使用の差止めと契約書用紙の廃棄が命じられました。10条に当たる条項は無効になるので、こうした条項を根拠に迫られても従う必要はありません。これを受けて国土交通省は、登録している家賃債務保証業者に同じ内容の条項の使用をやめるよう求めています。なお、この登録は任意の制度で(平成29年国土交通省告示第898号)、登録がなくても営業はできます。国土交通省のサイトに「登録家賃債務保証業者一覧」が公表されているので、契約前に見ておくとひとつの目安にはなります。
鍵の交換・荷物の撤去は認められない(自力救済の禁止)
ここははっきり書きます。滞納を理由に、貸主・管理会社・保証会社が次のことをするのは認められていません。
- 玄関の鍵を勝手に交換する、シリンダーに細工をして入れなくする
- 留守の間に部屋に入り、荷物を運び出す・処分する
- ドアや郵便受けに、周囲に分かる形で滞納の事実を貼り出す
- 電気・ガス・水道を止める、共用部の使用をさせない
- 深夜に繰り返し訪問する、勤務先や親族に繰り返し取り立てる
権利があっても、裁判所の手続によらず自分の力で実現すること(自力救済)は原則として許されていません。明渡しを求めるなら、解除し、訴訟を起こし、判決を得て、執行官の手続を踏む。それが唯一の道です。もしこうしたことをされたら、その場で応じずに記録を取ってください。写真、日時、担当者の氏名と会社名、やり取りのメモ。そのうえで消費生活センター、法テラス、弁護士会の相談窓口へ。滞納している側であっても、これは別の問題です。
貸主が本気で明渡しに動く分岐点
前提として、貸主にとって明渡しの訴訟は、まったく割に合わない選択です。弁護士費用と執行費用がかかり、その間の家賃は入らず、終わったあとに滞納分が戻ることもほとんどない。次の入居者を入れたほうが早い。可能なかぎり避けたいと思っています。そのうえで「手続に入るしかない」と判断するのは、金額の大きさよりも次の3つがそろったときです。
- 連絡が取れない。電話に出ない、郵便も開かれていない。事情が分からないと、貸主は何も判断できません。逆に言えば、連絡さえ取れていれば「待つ」という選択肢が残り続けます。
- 約束した入金予定が、説明なく何度も守られない。金額が少なくても、これが続くと信用の問題になります。守れそうにないと分かった時点で先に連絡をくれる人は、扱いがまったく違います。
- 減る見込みがなく、増え続けている。毎月きちんと1か月分ずつ遅れが増えていく状態です。ここまで来ると、待つこと自体が損失を広げる行為になります。
反対に言えば、連絡が取れていて、金額が減る方向に動いていれば、貸主は待ちます。「今月は半分だけ、来月末に残りを」という相談は珍しくありませんし、それで解決した例のほうが圧倒的に多い。貸主が恐れているのは金額そのものではなく、見通しが立たないことです。
払えないと分かったとき、最初にすること
- 払えないと分かった日に、管理会社へ連絡する。遅れてからではなく、遅れる前に。「◯日に◯円払えます」と具体的に言えると、相手も社内で通しやすくなります。
- 電話の内容を、そのあとメールで送っておく。「先ほどの件、◯日に◯円入金します」の一文で構いません。言った言わないを防げます。
- 自治体の自立相談支援機関に相談する。住居確保給付金をはじめ、家賃と生活費の支援制度の入口です。窓口は厚生労働省の生活支援特設サイトから探せます。
- 届いた書面は必ず開ける。内容証明、裁判所からの特別送達。受け取らないことで有利になることは何もありません。
- 払える金額を先に計算する。今の家賃が手取りに対して重すぎないかを確認します。制度でしのいでも、家賃の水準が合っていなければ同じことが起きます。
判断の分かれ目:残るか、早めに移るか
| 状況 | 向いている動き方 | 理由 |
|---|---|---|
| 収入減が一時的で、数か月で戻る見込みがある | 残って相談する。公的制度と分割の併用 | 引っ越しには初期費用がかかる。戻る見込みがあるなら残るほうが安い |
| 家賃が手取りに対して恒常的に重い | 滞納が小さいうちに、家賃の低い部屋へ移る | 制度でしのいでも構造が変わらない。滞納が増えるほど次の審査が厳しくなる |
| すでに解除の通知が届いている | まず相談窓口へ。自己判断で動かない | 和解で分割・猶予になる例もある。対応の巧拙で結果が変わる段階 |
| 連絡を絶ってしまっている | 今日、こちらから連絡を入れる | 連絡が取れた時点で、待つという選択肢が相手側に戻る |
よくある質問
家賃を何か月滞納すると強制退去になりますか
「◯か月で退去」と定めた条文はありません。解除には原則として催告が必要で(民法541条)、建物賃貸借では信頼関係が壊れたと言えるかが問われます。判例で積み重ねられてきた考え方です。実務上3か月前後が節目として語られますが、法律の数字ではなく、連絡が取れているか、減る方向に動いているかで扱いは変わります。
貸主に鍵を替えられました。どうすればいいですか
その場で応じず、日時・状況の写真・担当者と会社名を記録してください。滞納があっても、裁判所の手続によらずに部屋から締め出すことは認められていません。そのうえで、自治体の消費生活センター、法テラス、弁護士会の相談窓口のいずれかに連絡を。滞納の話と、締め出された話は、分けて扱われます。
滞納すると次の部屋を借りられなくなりますか
保証会社は滞納の情報を扱っており、同じ系列の保証会社の審査では影響が出ることがあります。どの範囲でどれくらい残るかは保証会社ごとに違い、外からは分かりません。「必ず通らない」とも「影響しない」とも言えない、が正確なところです。審査で見られるものは入居審査に通らない理由にまとめています。
滞納が残ったまま引っ越してもいいですか
部屋を出ても、滞納分の支払い義務は消えません。解約の手続をしないまま出ると、家賃が発生し続けます。まず解約の予告と手続を確認し、残った分の支払い方を管理会社または保証会社と決めてから動いてください。黙って出るのがいちばん不利です。
まとめ
- 払えないと分かった日に、自分から連絡する。これが最も効く。
- 解除には原則として催告が必要(民法541条)。「◯か月で退去」という条文はない。信頼関係が壊れたかどうかは判例で形づくられた考え方。
- 保証会社の立替えで支払い義務は消えない。請求先が変わるだけ。
- 鍵の交換・荷物の撤去・貼り紙は認められない。2022年12月12日の最高裁第一小法廷判決では、保証会社の無催告解除条項と明渡しみなし条項が消費者契約法10条に当たるとされ、使用の差止めが命じられた(令和3年(受)第987号)。
- 家賃を支える公的制度がある。住居確保給付金の窓口は自治体の自立相談支援機関。
- 個別の契約でどうなるかは契約書と事情によります。最終的な判断は管理会社または貸主、および公的な相談窓口で確認してください。
