結論:直す義務は貸主にあります。動かないときは記録・書面・減額の順に進めます
連絡したのに設備が直らないとき、借りる側が取れる手は3つあり、順番があります。
- 記録を残して、書面で催促する。いつ・誰に・何を伝えたか。口頭だけのやり取りは、後で「聞いていない」で消えます
- それでも動かなければ、自分で修繕して費用を請求する道がある。民法607条の2と608条が根拠です
- 使えない部分の割合に応じて、家賃の減額を申し入れる。民法611条1項は、借主に責任のない事由で使えなくなった部分について、賃料が「減額される」と定めています
出発点は民法第606条1項です。「賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う」——直すのは貸主の義務であって、好意ではありません(ただし借主の責めに帰すべき事由で必要になった修繕は除かれます)。条文はいずれも2020年4月1日施行の改正民法後のもので、e-Gov法令検索で2026年9月20日に確認しました。
所有するアパートで修理を手配していると、遅れているケースの多くは「無視している」のではなく「段取りで詰まっている」ものです。どこで詰まるのかは後半に書きます。
故障を最初に連絡する段階の話(誰に連絡するか、費用は誰の負担か)はエアコンが壊れたら誰の負担?賃貸の設備故障の連絡方法と費用負担にまとめています。この記事は連絡しても動いてくれないときに絞ります。個別の事情で結論は変わるため、最終的な判断は契約書を持って管理会社または貸主に確認し、折り合わなければ消費生活センターや弁護士など第三者に相談してください。
前提の整理:貸主の修繕義務と、借主の通知義務はセットです
借主側にも法律上の義務があります。知らずに「連絡が遅れた」まま進めると不利になります。
| 条文 | 内容 | 実務での意味 |
|---|---|---|
| 民法606条1項 | 貸主は、使用・収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし借主の責めに帰すべき事由で必要になった修繕は除く | 直すのは貸主。ただし壊した原因が借主にあれば話は別になる |
| 民法615条 | 賃借物が修繕を要するときは、借主は遅滞なくその旨を貸主に通知しなければならない(貸主が既に知っているときを除く) | 気づいたらすぐ伝える。放置して被害が広がった分は借主の負担になりうる |
| 民法607条の2 | ①通知したのに貸主が相当の期間内に必要な修繕をしないとき ②急迫の事情があるとき——のいずれかで、借主は修繕をすることができる | 勝手に直してよいわけではなく、先に通知が要る。「相当の期間」の長さは条文に書かれていない |
| 民法608条1項 | 貸主の負担に属する必要費を借主が支出したときは、直ちに償還を請求できる | 自分で直した場合の費用請求の根拠。領収書・見積書を残す |
| 民法611条1項 | 借主に責任のない事由で一部が使用・収益できなくなったとき、賃料はその割合に応じて減額される | 2020年施行の改正で「減額を請求できる」から「減額される」に変わった。ただし割合の基準は条文にない |
この表でいちばん大事なのは615条です。「遅滞なく通知」した記録があるかどうかで、その後の立場が変わります。気づいた日・連絡した日・相手の返答。この3つをメモしておくだけで十分です。
国土交通省の「賃貸住宅標準契約書」(平成30年3月版)も第9条4項で「修繕の必要が認められるにもかかわらず、甲(貸主)が正当な理由なく修繕を実施しないときは、乙(借主)は自ら修繕を行うことができる」としています。ひな形なので同じ条文があるとは限りませんが、考え方の目安になります。
動かないときの手順
順に進めます。途中で解決すればそこで止めて構いません。
- 1. 記録に切り替える。電話で伝えたなら、そのあとに「本日○時に電話でお伝えした件です」とメールやアプリのメッセージで送る。これで通知した事実が文字で残ります
- 2. 事実を具体的に書く。「壊れた」ではなく「いつから/どの設備が/どういう状態で/生活のどこが困っているか」。写真や動画を添える。業者が見積もりを出せる情報になっているかが基準です
- 3. 期限を切って返事を求める。「○月○日までに、対応の予定を教えてください」。修理完了の期限ではなく返事の期限を求めるのがコツです。業者の空き状況によっては、貸主も完了日を約束できません
- 4. 窓口を上げる。担当者で止まっているなら管理会社の店長・管理部門へ、管理会社が動かないなら貸主(大家)へ直接。契約書か重要事項説明書に貸主の氏名・連絡先があります
- 5. 自分で修繕する道を検討する。民法607条の2の要件(通知済みで相当の期間が過ぎた、または急迫の事情がある)に当たるかを確認し、事前に「607条の2に基づき自分で手配します」と書面で伝えてから動く。見積書・領収書を保管し、608条1項で償還を請求します
- 6. 減額を申し入れる。使えない状態が続いている期間について、611条1項を挙げて協議を求めます
5番には注意点があります。「相当の期間」の長さは条文になく、設備の種類・季節・部品の在庫で変わります。数日待っただけで全額請求できるとは限りません。高額な修繕ほど、先に書面で伝えておくことが重要です。
6番も、自分の判断で家賃を減らして振り込むのは避けてください。611条1項は「減額される」と定めますが割合の基準は条文になく、標準契約書も「減額の程度、期間その他必要な事項について協議するものとする」としています。一方的に減らすと差額が滞納として扱われ、保証会社への通知や契約解除の話に発展するおそれがあります。保証会社の役割は賃貸保証会社とは?保証料の相場・審査・大家が必須にする理由を解説にまとめました。
設備別の緊急度と、急かし方
同じ「直してくれない」でも、設備によって緊急度と材料が違います。貸主がどの順番で動くかを表にしました。日数は業者の手配状況で大きく変わるため、目安です。
| 設備・状況 | 貸主から見た緊急度 | 借主が使える材料 |
|---|---|---|
| 水漏れ・漏電・ガス漏れ | 最優先。建物と他の住戸に被害が広がるので、即日で人を向かわせる | 「階下・隣室に影響が出ています」と伝える。急迫の事情に当たりやすく、607条の2の②の場面になりうる |
| 玄関の鍵・オートロックの不具合 | 高い。防犯に直結するため後回しにしにくい | 「施錠できない状態です」と明確に書く。防犯上の危険は先送りの理由になりません |
| 給湯器(お湯が出ない) | 高い。ただし機器の在庫と工事の空きで日数が読めないことがある | 入浴できない日数を記録する。611条の協議を申し入れる材料になる |
| エアコン(設備として備え付けのもの) | 季節で大きく変わる。真夏・真冬は優先度が上がる | 室温・健康への影響を具体的に書く。設備なのか前入居者の残置物なのかを契約書で先に確認する |
| 換気扇・照明・網戸など | 低め。まとめて対応されやすい | 期限を切って返事を求める。軽微なら自分で手配したほうが早いこともある |
エアコンは先に確認してほしいことがあります。備え付けの「設備」なのか、前の入居者が置いていった「残置物」なのか。残置物として引き継いだものは貸主に修繕義務がない扱いが一般的です。契約書・重要事項説明書・設備表で確認しないまま交渉すると、話が噛み合いません。
貸主が直すのが遅くなる本当の理由
言い訳をするつもりはありませんが、遅れる原因は3つに集中しています。これを知っていると、催促の言葉が変わります。
1つめは、業者の空き状況です。繁忙期の給湯器、真夏のエアコンは、地域の業者が一斉に手一杯になります。連絡から訪問まで日が空く理由はたいていこれで、貸主に催促しても業者の予定は動きません。有効なのは「他の業者でも構いませんか」と提案することです。付き合いのある業者にこだわらなければ早く手配できる場面は実際にあります。
2つめは、見積もりと決裁です。管理会社が入っている場合、一定額を超える修繕は貸主の承諾が要ります。現地調査→見積書→管理会社から貸主へ連絡→貸主の返答という往復が発生し、貸主が高齢だったり遠方だったりすると数日止まります。だから「見積もりは出ていますか。貸主の返事待ちですか」と工程を聞くのが効きます。
3つめは、交換か修理かの判断です。古い設備は修理してもすぐまた壊れるので、貸主は「今直すか、交換まで待つか」を考えています。交換は金額が跳ね上がるぶん判断に時間がかかり、借主からは「何も進んでいない」ように見えます。
そのうえで伝えたいのは、感情ではなく事実で押すほうが圧倒的に早く動くということです。「いつまで待たせるんですか」より、「10日前に通知しています。現在どの工程で止まっているか教えてください。○日までに予定が立たない場合は、民法607条の2に基づいて自分で手配することを検討します」のほうが効きます。管理会社が貸主に説明しやすい言葉だからです。
なお、修繕の遅れと騒音などを同じ連絡にまとめると優先順位がぼやけ、全部が遅くなります。件名は分けてください(騒音の伝え方は隣人の騒音トラブル対処法|管理会社への伝え方)。
判断の分かれ目:待つか、自分で直すか、減額を申し入れるか
| 状況 | 向いている手 | 注意点 |
|---|---|---|
| 工程が説明され、期日の見通しが示されている | 待つ。経過を記録しておく | 期日を過ぎたら、その事実を書面で確認する |
| 通知したのに返事がない・工程の説明もない | 窓口を上げる。貸主へ直接連絡する | 契約書・重要事項説明書で貸主の連絡先を確認する |
| 生活に直結し、少額で直せる | 607条の2を挙げて事前に書面で伝え、自分で手配する | 「相当の期間」の判断は個別。高額なものほど先に書面で伝える |
| 使えない状態が長く続いている | 611条1項を挙げて減額の協議を申し入れる | 勝手に減らして払わず、協議の記録を残す |
| 部屋の主要な機能が失われ、住み続けられない | 611条2項の解除も含めて第三者に相談する | 自己判断で退去せず、消費生活センター・弁護士へ |
なお、管理会社が「賃料減額ガイドライン」という表を持ち出してくることがあります。公益財団法人日本賃貸住宅管理協会が出している「貸室・設備等の不具合による賃料減額ガイドライン」で、2024年(令和6年)10月4日に改定されたことが同協会のサイトで案内されています(2026年9月20日確認)。ただし同協会自身が「法的拘束力はなく減額の目安を示しているもの」と位置づけており、法令ではありません。提示されたら、どの版のどの項目が根拠かを聞いてよい性質のものです。
よくある質問
何日待っても直らない場合、自分で修理業者を呼んでいいですか
民法607条の2の要件(通知したのに相当の期間内に修繕されない、または急迫の事情がある)に当たれば可能です。ただし「相当の期間」が何日かは条文に書かれていません。水漏れのように放置すると被害が広がるものは「急迫の事情」に当たりやすい一方、軽微な不具合で数日待っただけでは足りないと見られる可能性があります。手配する前に「○日までに予定が立たない場合は自分で手配します」と書面で伝えるのが安全です。費用の請求は608条1項が根拠になります。
家賃は自動的に減額されるのですか
民法611条1項は、借主に責任のない事由で一部が使用・収益できなくなった場合、賃料は「その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される」と定めています。2020年施行の改正前は「減額を請求することができる」でした。ただし割合を決める基準は条文になく、金額が自動で反映されるわけでもありません。標準契約書も減額の程度・期間などは当事者が協議するものとしています。申し入れて協議する、という流れです。
エアコンが古くて効きが悪いのですが、交換してもらえますか
「故障して使えない」のか「使えるが効きが悪い」のかで扱いが変わります。前者は修繕義務の話になりますが、後者は貸主に交換義務があるとは言いにくい領域です。契約上の設備なのか残置物なのかを確認したうえで、設備であれば効きの悪さの程度と経過年数を具体的に伝えて相談する形になります。なお、機器の寿命による故障は経年劣化による自然損耗として貸主側の負担とされるのが一般的な考え方です。
修繕を求めたら、更新を断られたり追い出されたりしませんか
修繕を求めること自体は、法律に定められた義務の履行を求める行為です。建物賃貸借では、貸主からの更新拒絶や解約の申入れに正当の事由が求められる仕組みもあります。とはいえ関係がこじれるのは避けたいので、感情ではなく事実と条文で淡々と進めるのが結果的にいちばん穏やかです。不安が強い場合は、やり取りを文字で残したうえで消費生活センターなど第三者に相談してください。
まとめ
設備を直すのは貸主の義務です(民法606条1項)。ただし借主にも、修繕が必要になったら遅滞なく通知する義務があります(民法615条)。通知したのに相当の期間が過ぎても直らないとき、または急迫の事情があるときは、借主が自分で修繕できる道が開かれ(607条の2)、支出した必要費は直ちに償還を請求できます(608条1項)。使えない部分については、その割合に応じて賃料が減額されます(611条1項)。
進め方は、記録 → 書面 → 工程の確認 → 窓口を上げる → 自分で修繕/減額の申し入れ、の順です。急かすときは「いつ通知したか」「今どの工程で止まっているか」「いつまでに返事がほしいか」を書く。貸主から見ても、この形の連絡がいちばん動かしやすいものです。
ただし、自分の判断で家賃を減らして払うことと、貸主の承諾なく高額な修繕を手配することは避けてください。個別の事情で結論は変わりますので、最終的な判断は契約書を持って管理会社または貸主に確認し、折り合わないときは消費生活センターや弁護士など第三者に相談してください。
参照した出典(すべて2026年9月20日確認):民法第606条・第607条の2・第608条・第611条・第615条(e-Gov法令検索、法令ID 129AC0000000089。2020年4月1日施行の改正後の条文)/国土交通省「賃貸住宅標準契約書」平成30年3月版・連帯保証人型 第9条・第12条・別表第4/公益財団法人日本賃貸住宅管理協会「貸室・設備等の不具合による賃料減額ガイドライン」改定のお知らせ(令和6年10月4日改定、法的拘束力はない旨の記載あり)。