結論:殺虫剤より先に管理会社へ。費用は「原因が建物か、使い方か」で分かれます
賃貸でゴキブリや蟻が出たときにやることは、順番も含めて3つです。(1)出た場所と日付を写真で残す、(2)管理会社(いなければ貸主)に連絡する、(3)侵入経路をふさぐ。殺虫剤をまくのはそのあとで構いません。まいて終わりにすると、同じ場所からまた入ってきます。
費用については、「害虫駆除は誰の負担」と定めた法令の条文はありません。土台になるのは民法と契約書です。民法606条1項は「賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う」と定め、2020年4月1日施行の改正でただし書が加わり、借主の責めに帰すべき事由で修繕が必要になったときは貸主の義務ではないと明記されました。害虫の発生がこの修繕義務に入るかは、原因が建物側か、室内の使い方かで分かれます。だからまず、原因を切り分ける連絡が要るわけです。加えて借主には、修繕が必要な状態を知ったときに貸主へ知らせる義務があります(民法615条)。連絡そのものが、あとで負担を主張する足場になります。
どこから入ってくるのか。侵入経路7つ
所有するアパートで害虫の連絡を受けたときに、最初に見にいく場所です。ほとんどがこのどれかに当たります。
- 排水口と排水トラップ。たまった水(封水)が蒸発すると、下水とつながった穴が開いたままになります。長期の旅行や空室のあとに出やすいのはこれです。
- 洗濯機置場の排水まわり。防水パンの排水口にトラップが付いていない物件があります。間接排水の仕組みを知っておくと自分で判断できます。
- エアコンのドレンホースと配管の貫通部。壁を貫いた穴のパテが痩せて隙間が空いていることがあります。ホースの先は屋外に開いた管です。
- 玄関ドア・窓のすき間と網戸。破れ、立て付けのズレ、網戸のない窓。網戸がない窓・破れた網戸への対処は賃貸でもできる範囲があります。
- 換気口・通気口・換気扇のフード。古い物件で、屋外側の防虫網が外れたままのもの。
- 持ち込み。段ボール、中古の家具・家電、宅配の梱包材。引っ越し直後に出る原因では、これが意外に多いです。
- 共用部と隣室から。ゴミ置き場、植栽、側溝、隣室や上下階。配管スペースや幅木のすき間を通ります。この経路は入居者が一人で対処できません。管理会社の仕事です。
入居前と入居直後にやると効くこと
鍵を受け取ってから荷物を入れるまでの、がらんどうの数日がいちばん効きます。家具が入ったあとでは届かない場所に手が届くからです。入居日にやっておくと退去までラクな準備と合わせて済ませてしまうのが効率的です。
- すべての排水口に水を流して封水を作る。キッチン、洗面、浴室、洗濯機置場、ベランダ。空室期間が長かった部屋ほど効きます。
- 配管の根元を見る。洗濯機置場とキッチン下。隙間があれば、カバーやパテで埋められないか管理会社に相談します。
- エアコンのドレンホースの先に防虫キャップを付ける。径に合い、詰まらせない形のものを。
- 網戸と窓のすき間を確認する。破れ・外れ・戸車のズレは、入居前なら貸主側で直してもらえる可能性があります。
- 燻煙剤を使うなら、先に管理会社へ一報を。火災報知器の養生が要りますし、近隣への告知を求める管理会社もあります。製品の使用上の注意に必ず従ってください。
- 段ボールは室内に溜めない。開けたその日にたたんで出す。持ち込みの経路がひとつ消えます。
住み始めてからは、排水口のケアと生ゴミの管理が効きます。においと虫は原因がだいたい同じです。
費用は誰が負担するのか
ここは断定できる話ではありません。明文の規定がなく、契約書の特約と、原因がどこにあるかの2つで決まります。実務でどう切り分けられているかを表にします。最終的な判断は契約書を見ながら管理会社または貸主に確認してください。
| 場面 | 疑われる原因 | 実務で多い負担の分かれ方 | まずどこへ |
|---|---|---|---|
| 入居してすぐ(数日〜数週間)に出た | 前の入居者からの残存、空室中の封水切れ、配管の隙間 | 貸主・管理会社の側で消毒や補修を手配することが多い | 管理会社(写真つきで) |
| 住んで半年〜1年たってから出た | 持ち込み、生ゴミ・食品の保管、掃除の頻度 | 借主が自分で対処するのが一般的 | まず自分で。繰り返すなら管理会社へ |
| ゴミ置き場・植栽・側溝が発生源 | 共用部の管理状態 | 共用部の維持管理は貸主側の領域 | 管理会社(共益費の使い道の話) |
| 配管の貫通部が開いている・床下の湿気 | 建物そのものの状態 | 建物の修繕として貸主が負う可能性が高い(民法606条1項) | 管理会社(できれば書面・メールで) |
| 隣室・上下階から来ている | 他の住戸の状態 | 管理会社が隣室へ働きかける。入居者同士では解決しない | 管理会社(直接隣に言わない) |
気をつけたいのは、勝手に駆除業者を呼んで請求書だけ貸主に回すやり方です。改正民法607条の2で借主が自分で修繕できる場合が明文化されましたが、「貸主に通知したのに相当の期間内に修繕しないとき」か「急迫の事情があるとき」に限られます。承諾のない出費は揉めます。
害虫の連絡が来たとき、貸主は何を疑うか
正直に書きます。「虫が出ました」という連絡を受けたとき、貸主が確認するのは次の順番です。
- 同じ建物の他の部屋から、同じ時期に同じ連絡が来ていないか。2件以上あれば室内の問題ではなく建物・共用部の問題です。この時点で業者を入れる判断に切り替わります。
- 入居してからどれくらい経っているか。入居直後なら、前からいたか、空室中に入ったかを疑います。貸した側の責任として受け止める場面です。
- 前回の空室時に消毒を入れたか、いつか。記録を見ます。入れていなければ、こちらの手落ちです。
貸主にとっていちばん困るのは、連絡が来ないまま半年たって、退去時にまとめて言われることです。1件目の連絡で共用部の問題だと分かれば、建物全体の消毒を1回発注して終わる話です。害虫の連絡は、貸主にとっては苦情ではなく建物の点検の合図です。遠慮せずに入れてください。なお「隣が原因だと思う」と言われても、管理会社は隣室に直接そうは言えません。建物全体への案内文や共用部の消毒という形で間接的に動きます。
出やすい物件と出にくい物件の分かれ目
| 見る場所 | 出やすいサイン | 出にくいサイン |
|---|---|---|
| ゴミ置き場 | 屋外で扉がない、ネットだけ、散らかっている | 屋内または扉つき、収集日の掲示が新しい |
| 共用廊下・階段 | 私物が置かれている、隅に土やホコリが溜まっている | 清掃が入った形跡、清掃記録の掲示がある |
| 植栽・側溝 | 伸び放題、落ち葉が詰まっている | 刈り込まれている、側溝が見える |
| 室内の配管まわり | キッチン下・洗濯機置場の配管の根元に隙間 | パテやカバーで処理されている |
| 階数と周辺 | 1階・地下・半地下、飲食店が入る建物や隣接地 | 中層階以上、周辺に飲食系のゴミがない |
1階が必ず出るわけではありませんし、中層階でも配管を通って上がってきます。これは確率の話です。ただ、掲示板と共用廊下の状態は、その建物の管理にお金と手が入っているかをいちばんよく表します。1階を検討しているなら、1階の防犯と虫対策を窓まわりの対策としてまとめてあります。
よくある質問
入居してすぐゴキブリが出ました。駆除費用を貸主に請求できますか
「請求できる」と言い切れる制度はありません。ただ、入居直後であれば建物側や空室期間に原因がある可能性が高く、実務上は貸主・管理会社の側で消毒を手配する対応になることが多い場面です。自分で業者を呼んで払ってしまう前に、写真と日付を添えて管理会社に連絡してください。順番を逆にすると、あとから負担を分けてもらうのが難しくなります。
入居前に燻煙剤(煙が出るタイプ)を使っていいですか
使える物件は多いですが、事前に管理会社へ一報を入れてください。火災報知器・熱感知器が反応すると、建物によっては警備会社や消防に通報が飛びます。製品側も報知器の養生を指示しているはずなので、使用上の注意に必ず従ってください。可否の最終判断は管理会社に確認を。
蟻の行列ができています。自分で対処すればいいですか
行列がどこから来ているかで変わります。室内の食品に向かっているだけなら自分の管理の範囲ですが、壁や床の隙間、サッシの下枠から連続して入ってきている場合は、建物側に経路があるということです。後者は管理会社に伝えてください。屋外の巣が発生源であれば、共用部の処置になります。行列の起点を写真に撮っておくと話が早く進みます。
何度も出るので引っ越したいです。違約金はかかりますか
契約書の解約条項によります。短期解約違約金の定めがある物件もあるので、解約予告と違約金の考え方を確認したうえで相談してください。建物側の原因で改善されない状態が続いているなら、解約の前にその旨を書面やメールで伝えて記録に残しておくことです。
まとめ
- やる順番は「記録 → 連絡 → 経路をふさぐ」。殺虫剤はそのあと。
- 侵入経路の中心は排水(封水切れ)・配管の貫通部・網戸・持ち込み・共用部。
- 費用負担を定めた条文はない。建物が原因なら貸主の修繕義務の範囲に入る可能性が高く(民法606条1項)、使い方が原因なら借主側。切り分けのために連絡が要る。
- 承諾なく業者を呼ぶと揉める。自分で修繕できるのは通知しても直されないときか、急迫の事情があるとき(民法607条の2)。
- 物件選びではゴミ置き場・共用廊下・掲示板を見る。管理に手が入っているかがそこに出る。
本文の法令の扱いは一般的な考え方です。お住まいの物件でどうなるかは契約書の特約次第なので、最終的な判断は管理会社または貸主に確認してください。
