団地を取材し続けている当サイトが、どうしても紹介したい映像があります。1960年(昭和35年)に制作された広報映画「団地への招待」。日本住宅公団(現・UR都市機構)の入居当選者に「団地の住まい方」を教えるために作られた約17分のハウツー映像で、日経映像さんの公式チャンネルが高画質の完全版を公開しており、再生数は274万回を超えています。全国の物件を内見してきた目で観ると、これがもう、驚きの連続でした。
※映像は日経映像株式会社の公式公開によるものです(当チャンネルの動画ではありません)。DVDや二次使用のご案内は動画概要欄をご覧ください。
どんな映画?——結婚を控えた妹が、団地に住む兄夫婦を訪ねる
舞台は、当時の公団団地を代表するひばりが丘団地。来月結婚して団地生活を始める主人公が、ひと足先に団地暮らしをしている兄夫婦の部屋(74号館208号室)を訪ね、先輩夫婦から「団地の住まい方」を教わっていく——という構成です。物語仕立てなので、教育映像なのに普通に面白い。役場の出張所、マーケットと商店街、交番、遊園地、小学校。冒頭の案内図の場面で主人公が言う「団地は全く独立した新しい街なのね」という一言に、当時の団地がどれほど新しい存在だったかが凝縮されています。
見どころ①:昭和35年の「憧れの暮らし」の解像度
兄夫婦の部屋には、テレビにステレオ、洗濯機・冷蔵庫・自動炊飯器。玄関には覗き窓と防犯チェーン。玄関を入るとすぐ台所があり、6畳の居間を「洋風に」使い、カーテンで居間と寝室を仕切る——。家電と設備のひとつひとつが誇らしげに映されるのは、それが当時の最先端だったから。「ダイニングキッチンで食寝分離する」という、いま私たちが当たり前に住んでいる間取りの原型が、憧れとして描かれる瞬間を見られます。
見どころ②:65年前なのに「今と同じ」暮らしの知恵
一番唸ったのはここです。映画の中で先輩夫婦が教えてくれる注意事項が、現代の賃貸暮らしの注意点とほとんど同じなんです。
- 結露とカビ——新築のコンクリートは乾くまで約2年。通風を良くして、家具は壁から離す(まさに現代の結露対策と同じ)
- 換気の徹底——ガスストーブを閉め切った部屋で使わない。換気扇の活用
- 水回りのマナー——トイレには溶けやすい紙を。詰まればご近所にも影響する
- 音への配慮——集合住宅は音が響く。互いの迷惑を考える共同生活の心得
建物の性能は65年で大きく進化しましたが、集合住宅で快適に暮らす知恵の本質は、驚くほど変わっていません。「暮らし方は設備と一緒に育ってきた」ことが実感できる、生きた住宅史です。
見どころ③:この映画の団地は、今も続いている
この映画を「昔は良かった」で終わらせないのが当サイトの視点です。マーケットや集会所、広い遊び場、棟と棟の間のゆとり——映画に映る「街として設計された団地」の思想は、建て替えやリノベーションを重ねながら、現代のUR団地に受け継がれています。私たちが取材してきた今の団地(リノベーションされた高洲第一など)と見比べると、65年分の進化と、変わらない設計思想の両方が見えてきます。団地の歴史はコメント研究室の団地・UR回でも解説しました。
まとめ|17分の時間旅行、ぜひ本編を
「団地への招待」は、住宅史の資料としても、昭和レトロの映像としても、そして「集合住宅で暮らすとは何か」を考える教材としても一級品です。17分、コーヒーでも淹れてぜひ本編をどうぞ。観終わったら、現代の団地の実物をUR賃貸住宅の特設ページの内見動画で見比べてみてください。65年後の「団地への招待」がそこにあります。
