賃貸の壁に傷・設備を壊したら?大家が教える対処と費用負担

賃貸物件で壁に傷をつけてしまったり、設備を壊してしまったりしたとき、多くの方が最初に考えるのは「退去時に高額請求されるのでは」「黙っておいたほうがいいのでは」ということだと思います。この記事では、宅建士であり自身も賃貸物件を経営する現役大家のアパートメントラボが、入居者対応の実体験をもとに「壊してしまった後の正しい動き方」を解説します。

賃貸で壁に傷・設備を壊したら、まずやるべきこと

現役の大家として先にお伝えすると、正しい順番は「記録→連絡→保険確認」です。慌てて自己流の対処をする前に、この順番だけ押さえてください。

自己判断で修理・DIY補修する前に一度止まる

壁の穴やフローリングの傷は、市販の補修キットで直したくなるものです。ただ、素人補修は仕上がりの差が出やすく、退去時の立会いでかえって話がこじれる原因になることがあります。また、後述する火災保険を使う場合、保険会社が損害状況を確認する前に直してしまうと手続きが難しくなるケースがあります。まずは手を付けずに次のステップへ進むのが無難です。

状況を写真で記録しておく

損傷箇所は、日付がわかる形でスマホ撮影しておきましょう。「引き」で場所がわかる写真と「寄り」で損傷の程度がわかる写真の2種類があると、管理会社や保険会社とのやり取りがスムーズです。私自身、入居者さんから連絡を受ける際に写真を添えてもらえると、その場で「これは保険で対応できそうですね」「この程度なら退去時にまとめて精算で大丈夫ですよ」と一次回答ができるので、お互いの不安な時間が短くて済みます。

連絡すべき相手と伝え方(管理会社?大家?)

連絡先は物件の管理形態によって異なります。管理会社が入っている物件なら管理会社へ、大家さんが自主管理している物件なら大家さんへ連絡します。どちらかわからない場合は、賃貸借契約書や重要事項説明書に「管理の委託先」の記載があるので確認してください。

伝える内容はシンプルで構いません。

  • いつ、どこを、どのように損傷させたか
  • 現在の状態(使用に支障があるか、水漏れ等の二次被害がないか)
  • 写真を送れること

ここで大切なのは、経緯を正直に伝えることです。後の火災保険の適用可否は「どういう経緯で壊れたか」で判断されるため、事実と違う説明をすると保険が使えなくなったり、トラブルの元になったりします。

費用は誰が負担する?原状回復の基本的な考え方

「壊したら全額弁償」と思い込んでいる方が多いのですが、賃貸の費用負担は「原状回復」という考え方で整理されます。国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」でも示されている一般的な考え方は、次の通りです。

故意・過失による損傷は入居者負担が原則

物を運んでいてぶつけた壁の穴、飲み物をこぼして放置したことによる床のシミなど、入居者の故意・過失や通常の使い方を超える使用による損傷は、入居者が修繕費用を負担するのが原則です。

経年劣化・通常損耗は貸主負担が原則

一方で、日照による壁紙の変色、家具の設置による床のへこみ、普通に使っていて寿命を迎えた給湯器の故障などは、経年劣化・通常損耗として貸主(大家)負担が原則です。「壊れた=自分のせい」とは限らないので、初期設備の自然故障はむしろ遠慮なく連絡してください。

判断に迷うグレーゾーンの例

結露を放置したことによるカビ、画鋲より大きいネジ穴などは、状況によって判断が分かれやすい部分です。契約書に原状回復に関する特約がある場合もあるため、負担割合は個別の契約内容と損傷状況によります。まずはご自身の賃貸借契約書を確認してみてください。

火災保険(借家人賠償・破損汚損特約)が使えるケース

賃貸契約時にほとんどの方が火災保険(家財保険)に加入しています。この保険には多くの場合「借家人賠償責任特約」が付いており、入居者の過失で部屋に損害を与えて大家への賠償責任が生じた場合をカバーする仕組みになっています。また、契約によっては「破損・汚損」補償が付いていることもあります。火災保険料を含む賃貸の初期費用の内訳は賃貸の初期費用の内訳と相場で解説しています。

「不測かつ突発的な事故」なら補償対象になり得る

一般に補償の対象となるのは、「不測かつ突発的な事故」による損害とされています。たとえば、家具を運んでいて誤って壁にぶつけて穴を開けてしまった、子どもが物を落として床をへこませてしまった、といったケースです。ただし補償範囲・免責金額は契約によって大きく異なるため、ご自身の保険証券の確認と保険会社への問い合わせをおすすめします。

故意による破損は対象外

腹を立てて壁を殴って開けた穴のような故意による損傷は、保険の対象外とされるのが一般的です。また、故意に壊したものを「事故だった」と偽って保険請求することは絶対にやめてください。

自分の契約内容を確認する方法

入居時の契約書類一式の中に保険証券(または加入者証)が入っていることが多いです。見当たらない場合は、仲介した不動産会社か管理会社に「加入している火災保険を確認したい」と伝えれば案内してもらえます。

ケース別の対処ポイント

壁に穴を開けた・へこませた場合

石膏ボードの穴は、経緯が過失であれば借家人賠償の対象になり得る代表例です。穴の大きさにかかわらず、まず写真を撮って管理会社・大家へ連絡してください。ポスターや時計程度の画鋲穴は通常損耗の範囲とされることが一般的ですが、下地ボードの交換が必要なネジ穴・大穴は入居者負担となる場合があります。

床(フローリング)に傷をつけた場合

物の落下や引きずりによる傷・へこみは過失による損傷にあたるのが一般的です。補修は範囲や工法によって費用が大きく変わるため、金額は管理会社経由の見積もりで確認しましょう。保険の「破損・汚損」補償が使えるケースもあります。

備え付け設備(エアコン・建具・水回りなど)を壊した場合

まず、それが「最初から付いていた設備」かどうかを確認してください。重要事項説明書の設備欄に記載がある初期設備なら、自然故障は貸主負担が原則です。一方、使い方の誤りで壊した場合は入居者負担となり得ます。水回りは放置すると階下漏水など二次被害が拡大しやすいので、損傷に気づいたら当日中の連絡をおすすめします。

現役大家としての本音「早く正直に言ってくれる入居者が一番助かる」

私は宅建士であると同時に、現役で賃貸物件を経営している大家です。その立場から本音を言うと、設備を壊したり壁を傷つけたりしたこと自体で入居者さんを責めたいと思ったことは一度もありません。長く住んでいれば、うっかりは誰にでもあります。

実際に、引っ越し作業中に壁に穴を開けてしまった入居者さんから、当日に写真付きで「ぶつけてしまいました」と連絡をもらったことがあります。経緯がはっきりしていたので加入されていた保険で対応でき、入居者さんの実質負担はごくわずかで済みました。連絡が早く経緯が正直だと、保険も使いやすく、修繕も小さく済み、結果的に費用もトラブルも最小になります。

逆に大家として一番困るのは、退去立会いで初めて発覚するケースです。損傷を家具で隠したまま時間が経つと、経緯がわからず保険も使いにくくなり、傷みが進行して修繕範囲が広がっていることも少なくありません。「言い出しにくいことほど早く言った方が安く済む」——これは大家側から見た偽らざる実感です。

傷や破損を放置・隠蔽するとどうなる?

  • 損傷が進行して修繕範囲・費用が拡大する(特に水回り・カビ)
  • 事故の経緯を証明できなくなり、火災保険が使いにくくなる
  • 退去時に発覚した場合、経緯の説明がつかず敷金精算で揉めやすくなる
  • 故意の隠蔽と受け取られると、信頼関係の面でも不利になる

なお、退去時の精算は敷金から差し引かれるのが一般的な流れです。敷金の仕組みは敷金・礼金の仕組みと退去時の精算で詳しく解説しています。

まとめ|壊してしまったら「記録→連絡→保険確認」の順で

  1. 手を付けずに写真で記録する
  2. 管理会社または大家に正直に経緯を連絡する
  3. 加入している火災保険(借家人賠償・破損汚損)を確認する
  4. 修繕方法と費用負担は、契約書と相談の上で決める

うっかり壊してしまうこと自体は珍しいことではありません。大家の立場から断言できるのは、早く正直な連絡が、あなたの負担を一番小さくするということです。部屋探しから入居中のトラブル対応までは賃貸の部屋探し完全ガイドにまとめています。

畠山 晴允(はたけやま はるみつ)/アパートメントラボ合同会社 代表・宅地建物取引士

登録者14万人のYouTubeチャンネル「アパートメントラボ」を運営し、賃貸・分譲・戸建ての内見動画を制作。自身も広島で一棟アパートを経営する現役の不動産オーナー。UR都市機構などの物件PR動画も手がけ、賃貸を「借りる側」と「貸す側」の両方の視点から発信しています。運営者について >

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