「敷金・礼金」と聞いても、何にいくら払うのか、いつ返ってくるのかが曖昧なまま契約してしまう人は少なくありません。実はこの2つは性質がまったく違い、ここを理解しているかどうかで契約時にも退去時にも数万円単位で損得が分かれます。本記事では敷金と礼金の違い・相場・敷金が返ってくる仕組み・ゼロ物件や関西の敷引きの注意点まで、契約前に押さえるべきポイントをまとめました。筆者は宅地建物取引士であり、広島で一棟アパートを経営する現役の大家でもあるため、「借りる側」と「貸す側」の両方の視点からお伝えします。
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敷金とは?礼金とは?最大の違いは「返ってくるか否か」
敷金と礼金の根本的な違いは、ひと言でいえば「お金が返ってくるかどうか」です。敷金は大家へ預ける担保金で、退去時に未使用分が返ってきます。一方の礼金は大家へのお礼として渡すお金で、原則として一切返ってきません。名前が似ているため混同されがちですが、性質はまったくの別物です。
敷金は「預け金(担保)」
敷金は、家賃を滞納したときや、借主の不注意で部屋を傷つけてしまったときの修理費に充てるために、大家へあらかじめ預けておく担保金です。2020年4月施行の改正民法では、敷金が初めて法律上定義されました(民法622条の2)。条文では「賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で交付する金銭」とされ、賃貸借が終了して部屋を明け渡した後、大家は滞納家賃や借主の責任による損害を差し引いた残額を返還しなければならないと明文化されました。つまり敷金は「あくまで預かり金」であって、大家のものになるわけではない、という点が出発点です。
礼金は「返らないお礼金」
礼金は、部屋を貸してくれる大家へのお礼として支払う慣習的な金銭で、法的な根拠はありません。関東では関東大震災後の住宅難が起源とされ、商慣習として今日まで残ってきたものです。お礼という性質上、対価性がなく、退去しても返ってきません。ここを「敷金と同じように後で戻る」と誤解すると、退去時にがっかりすることになります。
| 項目 | 敷金 | 礼金 |
|---|---|---|
| 性質 | 預け金(担保) | お礼(対価なし) |
| 返還 | 未使用分が返る | 原則返らない |
| 法的根拠 | あり(民法622条の2) | なし(商慣習) |
| 主な用途 | 滞納・借主負担分の修繕に充当 | 大家への謝礼 |
敷金・礼金の相場は「家賃1ヶ月分」が最も一般的
では相場はいくらなのか。最新の公的統計である国土交通省「令和6年度 住宅市場動向調査報告書」(2025年6月公表)の民間賃貸住宅の結果を見ると、答えはどちらも「家賃1ヶ月分」がもっとも一般的です。
| あり世帯の割合 | 金額で最多のゾーン | 次に多いゾーン | |
|---|---|---|---|
| 敷金/保証金 | 57.7% | 1ヶ月ちょうど 61.7% | 2ヶ月ちょうど 17.4% |
| 礼金 | 42.6%(なし49.0%) | 1ヶ月ちょうど 65.0% | 1ヶ月超2ヶ月未満 19.5% |
注目したいのは、敷金は約6割の世帯が支払っている一方、礼金は「あり42.6%・なし49.0%」と、なしの世帯のほうが多い点です。「敷金ゼロが当たり前」という思い込みは実態とずれており、逆に礼金は半数近くの物件ですでにゼロになっています。なお前年度(令和5年度)は礼金1ヶ月ちょうどが75.9%でしたが、最新調査では65.0%へ動いており、年度によって上下します。地域差も大きく、礼金の徴収割合は東京で86.0%、大阪で76.9%、平均月数は全国1.1ヶ月・大阪1.3ヶ月と、エリアでかなり変わります。
敷金礼金ゼロ物件(ゼロゼロ物件)の実態と注意点
初期費用を抑えたい人にとって魅力的な「ゼロゼロ物件」。実際に増えています。LIFULL HOME’Sの2025年首都圏調査では、賃料10万円未満の敷金なし物件は53.2%(2023年)から63.3%(2025年)へ、10〜15万円未満では33.8%から46.4%へと最大12.6ポイント伸びました。背景には、ネット普及による物件比較で競争が激化したこと、そして家賃滞納時に立て替えてくれる家賃保証会社が普及し、大家が敷金で担保を取る必要性が薄れたことがあります。
ただし、ここが本記事でもっとも伝えたい核心です。「初期費用ゼロ=総額で安い」とは限りません。主な注意点は次の4つです。
- 家賃が相場より割高になりがち:敷金・礼金を取らない分を毎月の家賃に上乗せして回収する構造があり、長く住むほど総支払額で逆転することがあります。
- 退去時にクリーニング代を実費請求される:敷金を預けていないため、ハウスクリーニング特約として別途請求されます。ワンルーム・1Kで概ね1.5万〜3.5万円程度が目安です。
- 短期解約違約金が付くことが多い:相場は家賃1〜2ヶ月分。ゼロ物件では初期費用を回収できないため、家賃2ヶ月分など高めに設定されやすい傾向です。
- 解約予告期間が長い・契約条件が厳しい:通常「1ヶ月前」のところ「2ヶ月前」とされたり、滞納時の督促が厳しい契約もあります。
判断のコツは、初期費用の安さだけで飛びつかず、契約書の特約欄(定額クリーニング代・短期解約違約金)まで確認し、想定居住年数での総額で比較することです。
アパートメントラボの現場から
大家の立場から正直に申し上げると、敷金礼金ゼロは「サービス」ではなく「設計」です。私自身も空室を早く埋めたいときはゼロを検討しますが、その場合は退去時のクリーニング特約を契約書に定額で明記し、そこで原状回復の最低限を回収できるようにします。つまりゼロにした分は、月々の家賃か退去時のクリーニング代のどこかに織り込まれているのが普通なんです。借りる側が見るべきは「初期ゼロかどうか」ではなく「2年・4年住んだときの合計でいくらか」。ここを大家目線で逆算すると、ゼロ物件の見え方がかなり変わってきます。
関西の「保証金・敷引き」という独自の慣行
関東が「敷金・礼金」なら、関西(大阪・京都・兵庫など)や西日本では「保証金・敷引き(償却)」という独自の商慣行が主流です。仕組みはこうです。入居時にまとまった「保証金」(家賃3〜6ヶ月分が目安)を預け、退去時に契約で定めた「敷引金(償却金)」が、修繕の有無にかかわらず無条件で差し引かれて返ってきません。礼金がない代わりに、この敷引きが実質的に同じ役割を果たしている、と考えるとわかりやすいでしょう。
気になるのは「無条件で引かれるなんて有効なのか」という点です。これについて最高裁は平成23年(2011年)3月24日判決で、敷引特約は「敷引金が高額に過ぎなければ有効」と初めて判断しました。この事案は賃料月額9万6,000円・保証金40万円・敷引金18万〜34万円(賃料の約2倍弱〜3.5倍強)で、有効とされています。続く同年7月12日判決でも、賃料13万9,700円・敷引金21万円(賃料約1.5ヶ月分)の事案が有効とされ、枠組みが定着しました。
逆にいえば、敷引金が賃料額などに照らして「高額に過ぎる」場合は、消費者契約法10条により無効となる余地があります。契約書に敷引金額の記載がない場合も同様です。「関西だから敷引きは全額仕方ない」という思い込みは禁物で、判断の分かれ目は「金額が明示されているか」と「高額すぎないか」。賃料3.5ヶ月分を大きく超えるような水準は危険水域とされます。なお、敷引特約が有効なら、その敷引金以上に通常損耗の原状回復費を二重に請求することは原則できません。関西で借りる方が見落としやすい防御ポイントです。
アパートメントラボの現場から
貸す側としての本音を言えば、敷金は「私のお金」だと思って預かっていません。あくまで借主さんからの預かり金であり、退去時に通常損耗や経年劣化を理由に差し引くことは、貸主の認識としても根拠がありません。日焼けや家具の設置跡、画鋲の小さな穴といった普通に暮らしていれば生じる損耗は、こちら持ちが原則です。敷金から引けるのは、滞納分か、タバコのヤニ・ペットの傷・故意過失による破損など、明らかに借主責任のものだけ。だからこそ、敷引きやクリーニング特約のように「契約で定めて差し引く」仕組みは、金額をきちんと明示しておくことが大家にとっても必須だと考えています。
礼金は交渉できるのか?
結論からいえば、礼金は値下げ交渉が可能です。ただしタイミングと進め方が肝心です。成功しやすいのは、引っ越し繁忙期を過ぎた閑散期や、空室が長期化している物件。交渉のタイミングは「申込書を提出する段階」で、契約が成立した後では基本的に交渉できません。
コツは「払いたくない」ではなく、大家にメリットを示すこと。たとえば「今月中に入居します」「長く住むつもりです」といった提案です。礼金交渉が断られても、賃料そのものの減額やエアコン等の設備更新交渉に切り替える手もあります。あわせて知っておきたいのがフリーレント(一定期間の家賃無料)です。LIFULL HOME’Sのデータ(2026年1月時点)ではフリーレント物件は全国の約6.9%(約15件に1件)ありますが、実際に活用している人は約5.6%にとどまります。家賃7万円・2年契約でフリーレント1ヶ月なら7万円の節約となり、家賃を月2,000円値引きするより2万2,000円お得な計算です。礼金交渉もフリーレントも「選択肢として知られていない」だけで、知っているかどうかで差がつきます。なお交渉が成立したら、口頭合意で終わらせず、減額内容が契約書に明記されているか必ず確認してください。
敷金はいつ、いくら返ってくるのか
敷金は、賃貸借が終了して部屋を明け渡した後に精算され、預けた敷金から「家賃滞納分」と「借主責任の修繕費」を差し引いた残額が返ってきます。ここで最重要なのが、通常損耗・経年劣化(床のへこみ、日焼け、電気焼けなど普通に暮らしていれば生じる損耗)の原状回復は、原則として大家負担だという点です。2020年の民法改正と国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」で、この線引きは明確になっています。「原状回復=借りた当時の状態に完全に戻す」ではありません。
たとえば壁紙(クロス)の耐用年数は6年とされ、6年を超えると借主負担は原則1円まで下がります。「何年住んでも壁紙全面張替えを全額請求される」は誤解です。トラブルを避けるには、入居時に室内の傷や汚れを写真で記録しておき、退去時の不当な請求には安易にサインしないこと。なお、敷金返還・原状回復の精算の詳しい計算方法や交渉術は、退去費用・原状回復の記事でくわしく解説しています。初期費用の全体像(仲介手数料や前家賃まで含めた総額)は初期費用の記事をご覧ください。
よくある質問(FAQ)
Q. 敷金は必ず全額戻ってきますか?
いいえ。敷金は預け金なので戻るのが原則ですが、家賃滞納分や借主の責任による修繕費があれば、その分を差し引いた残額が返ってきます。ただし通常損耗・経年劣化は大家負担なので、これらを理由に差し引くことは原則できません。
Q. 礼金は返ってきますか?
いいえ。礼金は大家へのお礼という性質で、原則として一切返ってきません。ここが敷金との最大の違いです。
Q. 敷金ゼロ物件は本当にお得ですか?
一概には言えません。家賃が相場より高め、退去時のクリーニング代の実費請求、短期解約違約金などで、結局同等以上の負担になることがあります。想定居住年数での総額と、契約書の特約欄を確認して判断してください。
Q. 関西の敷引きは断れますか?
契約で明示された敷引金は、賃料に照らして高額に過ぎなければ最高裁で有効とされています。ただし金額が高額すぎる場合や契約書に記載がない場合は、消費者契約法10条で無効を主張できる余地があります。
まとめ
敷金は「返ってくる預け金」、礼金は「返らないお礼」。この違いを押さえるだけで、契約時の見え方が大きく変わります。相場は最新の国交省調査でどちらも家賃1ヶ月分が中心ですが、礼金は半数近くがすでにゼロ。一方でゼロゼロ物件は初期費用が安く見えても、家賃の割高・退去時のクリーニング代・短期解約違約金で総額が逆転することがあり、契約書の特約欄まで確認した「総額比較」が欠かせません。関西の敷引きや礼金交渉も、「明示されているか」「高額すぎないか」という同じ視点で見れば、無条件で受け入れる必要はないとわかります。賃貸全体の進め方は完全ガイドにまとめていますので、契約前にぜひ通して確認してみてください。
畠山 晴允(はたけやま はるみつ)/アパートメントラボ合同会社 代表・宅地建物取引士
登録者14万人のYouTubeチャンネル「アパートメントラボ」を運営し、賃貸・分譲・戸建ての内見動画を制作。自身も広島で一棟アパートを経営する現役の不動産オーナー。三菱地所レジデンス・積水ハウス・UR都市機構などの物件PR動画も手がける。賃貸を「借りる側」と「貸す側」の両方の視点から発信しています。運営者について >