「来月、賃貸の更新だけど更新料ってこんなにかかるの?」「そもそも払う義務はあるの?」——更新の時期が近づくと、こんな疑問が一気に押し寄せます。更新料は法律で一律に決まった費用ではなく、地域や物件によって「家賃1ヶ月分かかる」ところもあれば「まったくかからない」ところもあります。さらに更新時には更新料以外の出費も重なり、住み替えと天秤にかける人も少なくありません。この記事では、更新料の相場・地域差・法的な有効性・払わないとどうなるかまでを整理し、更新と住み替えを賢く判断できるようにします。筆者は宅地建物取引士であり、自身も広島で一棟アパートを経営する現役の大家として、貸す側・借りる側の両方の現場を見てきた立場から解説します。
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更新料とは?いつ・誰に払うお金か
更新料とは、賃貸借契約を更新して同じ部屋に住み続けるときに、借主から貸主(大家)へ支払うお金のことです。一般的な賃貸契約は2年ごとに契約期間が満了するため、その節目で支払うケースが多くなります。最高裁判所は更新料の性質について、「賃料の補充ないし前払、賃貸借契約を継続するための対価等の趣旨を含む複合的な性質を有するもの」と判示しています。つまり、家賃の一部前払いと「契約を続けるための対価」が混ざった性格のお金、という位置づけです。
ここで最初に押さえたいのは、更新料は全国一律の法定費用ではないということです。国土交通省「令和5年度 住宅市場動向調査」によると、民間賃貸に住む世帯のうち更新料を支払っているのは48.2%。約半数は更新料なしで暮らしています。「更新だから当然払うもの」という思い込みをまず外すことが、損をしないための出発点です。
更新料の相場と地域差(関東・関西・京都)
更新料を「取る」物件の相場は、2年更新で家賃1ヶ月分が最も一般的です。国土交通省の同調査(令和5年度)では、更新手数料の月数として「1ヶ月ちょうど」が66.4%、「1ヶ月未満」が22.5%で、三大都市圏では合計約9割が家賃1ヶ月分以内に収まっています。一方で、民間の調査(東急住宅リース・ダイヤモンドメディア 2020年)では更新料ゼロの物件が61.5%にのぼり、全国平均は0.35ヶ月分。ゼロ物件を除いた平均は0.91ヶ月分でした。「取る場合は1ヶ月分前後、そもそも取らない地域も多い」という二極構造になっていると理解しておくと正確です。
そして更新料は地域差が非常に大きいのが特徴です。国土交通省の調査では、更新料「あり」の割合は首都圏65.1%に対し、中京圏(名古屋圏)22.8%、近畿圏(大阪圏)25.5%と、エリアによって大きく開きます。LIFULL HOME’Sなどの慣習も踏まえると、地域ごとの傾向は次のとおりです。
| 地域 | 更新料の慣習 | 相場の目安 |
|---|---|---|
| 東京・千葉 | 更新料ありが多い | 2年ごとに家賃1ヶ月分 |
| 神奈川 | 更新料ありが多い | 1ヶ月分または半月分 |
| 埼玉・愛知 | ありだが控えめ | 半月分のケースも多い |
| 大阪・兵庫 | 更新料を取らないことが多い | ほぼなし(代わりに敷引き) |
| 京都 | 全国で最も高めの慣習 | 1年ごと1ヶ月分/2年ごと2ヶ月分など |
| 北海道・福岡など | 更新料なし物件が多い傾向 | なし〜0.5ヶ月分程度 |
都道府県別の更新料あり割合(国土交通省「民間賃貸住宅に係る実態調査」)では、神奈川90.1%・千葉82.9%・東京65.0%・京都55.1%(平均額1.4ヶ月分で最高水準)に対し、大阪府・兵庫県はほぼ0%です。なお、この都道府県別データは2007年(平成19年)実施の調査に基づくため、現在の体感とは多少ずれる可能性がある点は割り引いて見てください。
アパートメントラボの現場から
大家として「更新料を取るか取らないか」は、正直なところエリアの相場とのにらめっこです。私が経営する広島は元々更新料の慣習が薄い地域なので、私の物件は更新料を取っていません。代わりに重視しているのは「長く住んでくれる入居者にどう報いるか」。退去から次の入居までの空室期間や、原状回復・募集の手間を考えると、更新料1ヶ月分をいただくより、丁寧に住んでくれる方に長く残ってもらう方が大家にとって得なことは多いんです。だから更新料が定着している関東や京都の物件でも、滞納がなく部屋をきれいに使っている入居者からの「家賃を少し下げてほしい」という相談には、大家側も案外耳を傾けます。更新は、借主にとって数少ない「交渉のテーブル」が開く瞬間でもあるのです。
更新時に更新料以外でかかる費用
更新の見積もりを見て「思ったより高い」と感じるのは、更新料だけでなく複数の費用が重なるからです。代表的なのは次の3つです。
| 費用の種類 | 支払先 | 相場の目安 |
|---|---|---|
| 更新事務手数料 | 管理会社・仲介業者 | 家賃の0.2〜0.5ヶ月分(おおむね1〜2万円) |
| 火災保険の更新 | 保険会社 | 1〜2万円程度(2年契約) |
| 保証会社の更新料 | 家賃保証会社 | 年1万円程度、または賃料の10〜30%/年 |
ここで特に間違えやすいのが、「更新料」と「更新事務手数料」は別物だという点です。更新料は契約継続の対価で支払先は貸主(大家)、更新事務手数料は更新手続きの事務に対する対価で支払先は不動産管理会社。性質も相手も違うため、両方が請求される契約もあります。「二重取りでは?」と感じたら、契約書でそれぞれの負担者と金額を確認しましょう。火災保険は賃貸契約の期間と保険期間を揃えていることが多く、更新時に再加入が必要になります。保証会社の更新料は初回契約時の保証料より割安なことが多いものの、これらをすべて合算すると、更新時の出費は更新料を含めて数万円単位になるのが通常です。
更新料は払う義務がある?法的有効性と判例
「更新料って払わなきゃいけないの?」という疑問には、最高裁判所がひとつの答えを出しています。最高裁第二小法廷 平成23年(2011年)7月15日判決は、更新料特約が消費者契約法10条に違反して無効かどうかが争われた事案で、「更新料の額が賃料の額、賃貸借契約が更新される期間等に照らし高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り有効」と判断しました。この判決までは下級審でも有効・無効の判断が分かれていましたが、これによって方向性が統一されたのです。
有効とされる条件は、(1)賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載され、明確に合意していること、(2)賃料額・更新期間に照らして高額すぎないこと、の2つです。判決で有効とされた具体例は、「月額賃料4万5,000円・契約期間1年・更新料10万円(約2.2ヶ月分)」「賃料5万2,000円・2年・賃料2ヶ月分」「賃料3万8,000円・1年・賃料2ヶ月分」など。いずれも「特に高額とはいえない」とされました。つまり契約書に明記された更新料は、原則として支払う義務があると考えるのが基本です。
ただし「判決があるから、どんな更新料も常に有効」というのは誤解です。契約書に金額が一義的に書かれていない、そもそも更新料の定めがない、あるいは賃料・期間に比べて異常に高額——こうしたケースでは、無効を主張できる余地が残ります。
誤解しやすい「合意更新」と「法定更新」の違い
もうひとつ知っておきたいのが、更新には「合意更新」と「法定更新」の2種類があるという点です。合意更新は契約書に基づき双方が合意して更新する形で、更新料特約があれば支払義務が生じます。一方法定更新は、借地借家法に基づき、当事者が期間満了の1年前〜6ヶ月前までに更新拒絶を通知しなければ、従前と同じ条件で自動的に更新される制度です。
問題は、法定更新になった場合に更新料を請求できるかどうか。これは下級審の判断が肯定・否定に分かれており、最高裁の判断もなく未確定です。実務上の整理としては、契約書に「法定更新の場合も更新料を支払う」旨が明確に書かれていなければ、法定更新時の更新料は拒否できる余地があるとされています。「更新=必ず更新料」ではない、ということです。
払わない・更新拒否のリスク
では、契約書に適正に定められた更新料を払わないとどうなるのか。結論から言えば、いきなり追い出されることはないが、放置し続けると最終的に退去に至るおそれがあるというのが正確な答えです。
更新料の不払いは、家賃滞納と同様に扱われ得ます。一般的には次のような段階で進行します。
- 支払いの督促と遅延損害金の発生
- 連帯保証人への請求(1〜2ヶ月経過後)
- 貸主からの催告・契約解除通知
- 建物明渡訴訟
- 執行官による強制執行(鍵交換・家財搬出)
ただし、賃貸借契約の解除には「貸主と借主の信頼関係の破壊」が必要とされます。東京地裁 平成29年(2017年)9月28日判決は、(a)不払いが長期に及び少額でない、(b)支払いが特約で合意され不払いに合理的理由がない、(c)貸主の催告を無視した、といった要素から解除を認めました。裏を返せば、短期・少額で、不払いに正当な理由がある場合などは、信頼関係の破壊が否定され解除が認められないこともあります。「払わなくても大丈夫」も「すぐ追い出される」も、どちらも極端な誤解だと押さえておきましょう。なお、契約書にそもそも更新料の定めがなければ、そもそも法的な支払義務は生じません。
更新時の交渉と住み替え判断
更新の案内が届いたら、まず考えたいのは「このまま更新するか、住み替えるか」です。ここで効いてくるのが費用の比較です。
住み替えにかかる初期費用は、敷金1+礼金1+仲介手数料1+前家賃1+保証料・火災保険等1で、おおむね家賃の5〜6ヶ月分が目安。これに引っ越し費用(単身5〜8万円、4人家族10万円前後)が上乗せされ、三大都市圏の単身ではトータルで40万円ほどかかることもあります。一方、更新料は家賃1ヶ月分前後。家賃が据え置きで住み続けられるなら、更新の方が圧倒的に安いのが一般的です。住み替えが得になるのは、新居の家賃が大幅に安い、通勤などの事情がある、いまの家賃が相場より高い、といったケースに限られます。
更新を選ぶ場合、更新料そのものは契約時に合意済みのため、更新時の減額交渉は基本的に困難です。しかし家賃の値下げ交渉は、更新時こそ最大のチャンス。大家は退去・空室リスクを避けたいため、優良な入居者には住み続けてほしいのが本音です。コツは、滞納なし・部屋を丁寧に使っているといった良好な実績を示すこと、近隣相場を把握しておくこと、繁忙期(3〜4月)を避けて閑散期に切り出すこと。更新料は下げられなくても、家賃を月数千円下げられれば実質負担は確実に減ります。家賃負担を月単位でどう考えるかは、適正家賃の記事で詳しく整理しています。
アパートメントラボの現場から
貸す側にいて感じるのは、更新時に「家賃を下げてほしい」と丁寧に相談してくる入居者と、何も言わずに黙って退去していく入居者では、大家の対応がまるで違うということです。空室を埋め直すには募集費用も時間もかかりますから、滞納のない真面目な入居者から相談されれば、私なら「数千円なら下げて長く住んでもらおう」と考えます。逆に交渉が通りにくいのは、人気エリアで入居希望者が常に控えている物件や、すでに相場より明らかに安く貸している部屋。だから交渉の前には、同じ建物や近隣の似た間取りの募集賃料を一度調べてみてください。「相場より高い」という根拠があると、大家も応じやすくなります。何も言わずに更新するのは、開いているはずの交渉のドアを自分で閉めてしまうのと同じです。
よくある質問(FAQ)
更新料は必ず払わないといけませんか?
契約書に一義的かつ具体的に更新料の定めがあれば、原則として支払義務があります。最高裁も「高額に過ぎる等の特段の事情がない限り有効」と判断しています。逆に、契約書に定めがない・金額が明記されていない場合は支払義務が生じません。
更新料の相場はいくらですか?
取る物件では「2年更新で家賃1ヶ月分」が最も一般的です。国土交通省の調査でも三大都市圏の約9割が1ヶ月分以内に収まっています。ただし大阪・兵庫などそもそも取らない地域も多く、京都は1.4ヶ月分前後と全国でも高めです。
更新料を払わずに住み続けることはできますか?
契約書に適正な定めがある以上、払わないと債務不履行として扱われ、放置すれば最終的に契約解除・退去に至るおそれがあります。ただし不払いだけで直ちに解除が認められるとは限らず、信頼関係の破壊があるかどうかで個別に判断されます。
法定更新になれば更新料は払わなくていいのですか?
契約書に「法定更新の場合も更新料を支払う」と明記されていなければ、法定更新時の更新料は拒否できる余地があります。ただし裁判例が分かれているため、契約書の記載内容の確認が前提です。
更新料と更新事務手数料は同じものですか?
違います。更新料は契約継続の対価で支払先は大家、更新事務手数料は更新手続きの事務に対する費用で支払先は管理会社・仲介業者です。両方が請求される契約もあります。
まとめ
更新料は法律で一律に決まった費用ではなく、契約書に明記されている場合にのみ支払義務が生じる、地域慣習に根ざしたお金です。取る物件では家賃1ヶ月分前後が相場で、首都圏や京都では定着している一方、大阪・兵庫などほぼ取らない地域もあります。更新時には更新事務手数料・火災保険・保証会社更新料も重なるため、総額で見積もることが大切です。最高裁は適正に合意された更新料を有効と認めており、払わずに放置すれば最終的に退去リスクもありますが、いきなり追い出されるわけではありません。費用面では更新の方が住み替えより安く済むことが多く、更新は「家賃交渉のチャンス」でもあります。契約書を読み解き、相場と費用を理解したうえで、更新と住み替えを賢く判断してください。賃貸全体で損しないための基本は、完全ガイドで体系的にまとめています。
畠山 晴允(はたけやま はるみつ)/アパートメントラボ合同会社 代表・宅地建物取引士
登録者14万人のYouTubeチャンネル「アパートメントラボ」を運営し、賃貸・分譲・戸建ての内見動画を制作。自身も広島で一棟アパートを経営する現役の不動産オーナー。三菱地所レジデンス・積水ハウス・UR都市機構などの物件PR動画も手がける。賃貸を「借りる側」と「貸す側」の両方の視点から発信しています。運営者について >