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「実家の名義、まだ亡くなった父のままなんです」。売買の仲介の現場で、何度も聞いた一言です。売りたいと相談に来たのに、登記が親名義のままで契約に進めず、そこから戸籍集めに戻る。数か月、ときには1年以上の遠回りになります。
僕自身、昭和初期に建った築50年超の実家を「建て替えるか、売るか」で家族と話し合っている最中です。話し合いの前に最初にやったのが、実家の登記名義を確かめることでした。
この記事では、相続登記の義務化の期限と過料、自分でやる手順と所要期間、司法書士に頼んだ場合との費用差、話し合いがまとまらないときの「相続人申告登記」、名義の確認方法を、売却の現場の視点でまとめます。
制度の内容は2026年9月時点の法務省・法務局の公開情報に基づいています。登記は個別の事情で必要書類や手順が変わります。実際の申請は司法書士または管轄の法務局にご確認ください。税務は税理士等にご相談ください。
先に結論
- 相続登記は2024年4月1日から義務。不動産を相続で取得したと知った日から3年以内に申請しないと、正当な理由がなければ10万円以下の過料の対象になる。
- 2024年3月以前に起きた相続も対象で、期限は2027年3月31日。「親が10年前に亡くなって名義がそのまま」の実家は、あと半年で期限が来る。
- 自分でやれば登録免許税(評価額の0.4%)と書類代だけ。司法書士に頼むと報酬が平均7万円台。手間と時間で選ぶ。
- 話し合いがまとまらないなら、相続人申告登記で義務だけ先に果たせる。ただしそれでは売れない。売却を考えるなら登記と査定を並行する。
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相続登記の義務化、期限と過料を整理する
まず制度の骨格です。法務省の案内から、自分の場合の期限を当てはめてください。
| あなたの状況 | 登記の期限 | 根拠 |
|---|---|---|
| 2024年4月1日以降に親が亡くなった | 不動産を相続で取得したと知った日から3年以内 | 不動産登記法76条の2 |
| 2024年3月31日以前に親が亡くなり、名義がそのまま | 2027年3月31日まで(施行日から3年) | 同 経過措置 |
| 遺産分割協議で誰が取得するか決まった | 遺産分割の成立から3年以内 | 同 |
| 期限内に話し合いがまとまらない | 相続人申告登記で義務を履行できる(後述) | 不動産登記法76条の3 |
| 正当な理由なく期限を過ぎた | 10万円以下の過料の対象 | 同 164条 |
ポイントは2つあります。
ひとつは、期限の起点が「相続で不動産を取得したことを知った日」であること。親の家なら亡くなった日にほぼ知っているはずで、実務上は死亡日から3年と考えたほうが安全です。
もうひとつは、過去の相続もすべて対象だということ。「義務化される前に亡くなったから関係ない」は通りません。祖父名義のまま父も亡くなっている実家も少なくなく、こちらは2027年3月31日が期限です。
📖 用語メモ|過料と「正当な理由」
過料は行政上の制裁金で、罰金と違い前科にはならない。「正当な理由」の例は法務省通達(令和5年民二第927号)が5類型を示す。相続人が極めて多数で戸籍収集に時間がかかる、遺言の有効性が争われている、重病、DV避難、経済的困窮。有無は個別判断だが、「忙しかった」だけでは通らないと僕は見ている。
登記しないと何が困るか、売却の現場から
過料より現実的に困るのは、売却の場面です。仲介の実務で、名義が親のままだと何が止まるかを並べます。
| 困ること | 現場で起きること | 放置した場合 |
|---|---|---|
| 売買契約に進めない | 所有者でない人は売主になれない。媒介契約は結べても、契約・決済前に相続登記が必須 | 買主が待てず流れる。半年待ってくれる買主は稀 |
| 相続人が増える | 兄弟の一人が亡くなると、その配偶者と子が相続人に加わる(数次相続) | 会ったこともない甥姪の実印が必要になる |
| 遺産分割協議のやり直し | 相続人が増えるたびに全員の合意が必要 | 一人でも連絡がつかないと登記できない |
| 相続空き家の3,000万円控除の期限 | 相続から3年目の年末までの売却が要件、制度は2027年12月31日まで | 登記の遅れで売却がずれ、数百万円の税額差 |
| 解体・建て替えの補助金 | 申請者と所有者の一致を求める自治体が多い | 名義が違うと申請自体が通らない |
僕が一番伝えたいのは2行目です。放置している間に相続人が亡くなると、権利は次の世代に枝分かれします。二段、三段と重なると判子をもらう相手が10人を超えます。
「売るときにやればいい」と思われがちですが、売るときには相続人が増えていて、登記そのものができなくなっている。これが実務で最も多い詰まり方です。
⚠️ 失敗メモ|祖父名義のまま相続人19人
祖父名義で放置された土地を売りたいという相談で、戸籍をたどると相続人が19人いた例がある。うち2人は海外在住、1人は所在不明で、不在者財産管理人の選任から始めて売却まで2年かかった。相続人が「兄弟だけ」のうちに登記を終えるのが、いちばん安い対策になる。
自分でやる手順:3ステップと所要期間
相続登記は本人でも申請できます。流れを3ステップで書きます。
| ステップ | やること | 取得先・提出先 | 所要期間の目安 |
|---|---|---|---|
| ① 戸籍を集める | 亡くなった親の出生から死亡までの戸籍(除籍・改製原戸籍を含む)、相続人全員の現在戸籍、親の住民票の除票、取得する人の住民票 | 市区町村役場。2024年3月から広域交付制度で本籍地以外の役場でもまとめて取れる | 2週間〜1か月(本籍地の移動が多いと長引く) |
| ①’ 法定相続情報一覧図を作る(任意) | 集めた戸籍を法務局に提出し、相続関係を1枚にした「一覧図」の認証写しをもらう | 法務局。手数料無料 | 1〜2週間 |
| ② 遺産分割協議書を作る | 誰がどの不動産を取得するか書き、相続人全員が署名・実印を押す。印鑑証明書を添付 | 相続人同士 | 話し合い次第。書類作成自体は1日 |
| ③ 登記を申請する | 申請書、戸籍一式(または一覧図)、協議書、印鑑証明書、固定資産評価証明書、登録免許税を添えて申請。窓口・郵送・オンライン | 不動産の所在地を管轄する法務局 | 申請から完了まで1〜2週間 |
①戸籍集めが全体の7割
時間がかかるのはここです。親の出生から死亡までの戸籍を切れ目なく揃える必要があり、本籍を移した回数だけ役場が増えます。2024年3月からの広域交付制度で、以前よりは楽になりました。
集めた戸籍を法務局に出して「法定相続情報一覧図」の認証写しを取っておくと、銀行の解約や証券口座の名義変更にも使い回せます。相続手続きの窓口が複数あるなら、作っておいて損はありません。
②遺産分割協議書は「不動産の表示」を登記簿どおりに
協議書で登記が止まる原因のほとんどは、不動産の表示ミスです。登記事項証明書の「所在・地番・地目・地積」「家屋番号・種類・構造・床面積」をそのまま写します。地番と住所は別物で、住所で書くと補正になります。
③申請は窓口・郵送・オンラインのどれでも
様式と記載例は法務局のサイトにあります。オンライン申請はマイナンバーカードと専用ソフトが必要で、初めての人は窓口か郵送が現実的。窓口なら提出前に相談窓口(予約制)で書類を見てもらえます。
📝 現場メモ|広域交付は「直系」だけ
広域交付で取れるのは本人・配偶者・直系の親と子の戸籍まで。兄弟姉妹の戸籍は対象外で、親の兄弟が相続人になる場合や、亡くなった兄弟の子まで戸籍が必要な数次相続では、従来どおり本籍地ごとに郵送請求になる。相続人が兄弟に及ぶなら、この時点で司法書士に切り替えたほうが早い。
費用比較:自分でやる場合と司法書士に頼む場合
土地1筆・建物1棟、固定資産税評価額の合計1,000万円、相続人3人という標準ケースで並べます。
| 費用項目 | 自分でやる | 司法書士に頼む | 出典 |
|---|---|---|---|
| 登録免許税(評価額×0.4%) | 4万円 | 4万円 | 法務局(税率は登録免許税法) |
| 戸籍謄本 450円/除籍・改製原戸籍 750円 | 3,000〜8,000円程度 | 同左(実費) | 各市区町村 |
| 住民票・印鑑証明書・固定資産評価証明書 | 2,000〜4,000円程度 | 同左(実費) | 各市区町村 |
| 登記事項証明書(名義確認・完了後の確認) | 窓口600円、オンライン請求で郵送520円・窓口受取490円 | 同左 | 法務局(2025年4月改定後) |
| 司法書士報酬 | 0円 | 平均74,888円(5万円台が最多) | 日本司法書士会連合会 2024年3月アンケート |
| 交通費・郵送費・自分の時間 | 役場と法務局に数回 | ほぼゼロ | ― |
| 合計の目安 | 約5万円 | 約12〜13万円 | ― |
差は7〜8万円。この差をどう見るかは、自分の時間の単価と、相続関係の複雑さで決まります。
自分でやるのが向く人:相続人が配偶者と子どもだけで協力的、不動産は実家の土地・建物だけ、平日に役場・法務局へ行ける。
司法書士に頼んだほうがいい人:数次相続で甥姪や叔父叔母が相続人に入る、連絡が取りにくい人・認知症の人・未成年がいる、2027年3月末や3,000万円控除の期限が迫っている、不動産が複数の法務局にまたがる。
報酬は地域差と事務所差が大きいので、2〜3か所に見積を取ってください。「相続登記一式○万円」の広告は、戸籍の取得代行や協議書作成が別料金のことがあるので内訳を確認します。
なお登録免許税には期限つきの免税があり、地方の実家では土地の評価額が100万円を切ることも珍しくありません。
🔢 数字メモ|登録免許税の免税は2027年3月31日まで
相続登記の登録免許税の免税措置は、①不動産の価額が100万円以下の土地、②相続人が登記せず死亡した場合の当該相続人名義の登記、の2種類。いずれも2027年3月31日までの申請が対象で、申請書に「租税特別措置法第84条の2の2第○項により非課税」と記載しないと適用されない(法務局)。
話し合いがまとまらないときの「相続人申告登記」
「兄が売りたくないと言っていて、誰が実家を取得するか決まらない」。この状態で期限が近づく人のために、義務化と同時に始まったのが相続人申告登記です。
| 比較項目 | 相続登記(本来の登記) | 相続人申告登記 |
|---|---|---|
| 何を登記するか | 誰が所有者になったか(権利の移転) | 「登記名義人の相続人の一人は私です」という申出 |
| 必要な書類 | 親の出生からの戸籍一式、相続人全員の戸籍、遺産分割協議書、印鑑証明書など | 自分が相続人であることが分かる戸籍と、自分の住民票程度 |
| 誰が手続きするか | 取得する相続人(他の相続人の協力が必要) | 相続人の一人が単独でできる |
| 登録免許税 | 評価額の0.4% | かからない |
| 押印・電子署名 | 必要 | 不要。Webブラウザから申出できる |
| 義務の履行 | 完全に履行 | 3年以内の申請義務は履行したことになる |
| 売却・抵当権設定 | できる | できない。別途、相続登記が必要 |
| 遺産分割後 | ― | 分割成立から3年以内に改めて相続登記が必要 |
単独・無税・Webから申し出できる。「とりあえず過料を避ける」目的には十分です。
ただし限界もはっきりしています。「相続人の一人が誰か」を登記簿に載せるだけで、所有者が誰かは決まらない。だから売れないし、担保にも入れられない。
つまり相続人申告登記は「時間を買う」手段です。相続が起きたとき、僕の実家のように「残したい家族と、売りたい自分」で意見が割れていたら、その間に相場を知り、残す場合の費用と売る場合の手取りを数字で並べる。話し合いの材料を揃える時間として使うのが、いちばん賢い使い方だと思います。
📝 現場メモ|申告登記のまま「売る約束」はしない
相続人申告登記だけの状態で買主と話を進め、遺産分割で兄弟が反対して契約が流れた例がある。売主側の事情で解約になると、買主のローン審査や引越し準備の損害を問われかねない。査定と相場の把握までは進めてよいが、媒介契約や売買契約は相続登記の見通しが立ってからにする。
僕の実家:登記名義の確認から始めた話
家族との話し合いの前に、僕は実家の登記をパソコンで確認しました。名義が誰かで、話し合いの相手も手続きの量も変わるからです。築50年超の家は、土地は祖父名義、建物は父名義、というねじれも珍しくありません。確認する方法は3つあります。
| 方法 | 費用 | 使いどころ | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 登記情報提供サービス(オンライン) | 全部事項330円、所有者事項140円(2026年4月改定後) | まず名義だけ知りたいとき。自宅で数分。一時利用も可 | 画面上の情報で、証明書としては使えない。登録手数料が別途(個人300円) |
| 登記事項証明書(法務局) | 窓口600円、オンライン請求で郵送520円・窓口受取490円 | 登記申請や協議書作成の元資料にするとき | 全国どの法務局でも取れる。地番が分からないときは法務局で地番検索 |
| 固定資産税の納税通知書 | 無料 | 手元にあれば最初に見る | 納税義務者と登記名義人が一致しないことがある(相続人代表者が届出済みの場合など) |
僕が実家で確認したのは次の3点です。
- 土地と建物それぞれの所有者欄。名義が違えば、必要な戸籍も協議書の書き方も変わります。
- 所有者の住所。登記簿上の住所が古いままだと、相続登記の前提として住所変更の登記が必要になることがあります。
- 乙区(抵当権欄)。昔の住宅ローンの抵当権が残っていると、完済していても抹消登記が必要で、金融機関から書類を取り寄せることになります。
うちの実家は、いまそこに住んでいる親の名義でした。相続はまだ起きていないので、今の時点では相続登記の義務の対象ではありません。親の相続が起きたら、それを知った日から3年以内に登記することになります。この結果があったから、家族会議で「相続が起きたら誰の名義にするか」から話が始められた。「売る・売らない」の前に、誰が売主になれるのかを確かめる。順番はこれです。
⚠️ 失敗メモ|住所変更登記も義務化される
2026年4月1日から、所有者の住所・氏名の変更登記も義務化され、変更から2年以内に申請しないと5万円以下の過料の対象になる(法務省)。相続登記を済ませた自分の名義も、その後の引っ越しで対象になる。登記が終わったら住所変更の届出まで頭に入れておく。
登記と査定は並行して進める。僕が使っている査定サービス
売却を選択肢に入れているなら、登記完了を待ってから査定に動く必要はありません。査定は相続人でも受けられます。登記に1〜2か月かかる間に相場を把握しておけば、登記が終わった翌週には売り出せる。3,000万円控除や納税資金の期限がある人ほど、この並行が効きます。
ただ、いきなり不動産会社に来店すると営業がかかります。相続人の話し合いがまとまっていない段階でそれは負担です。
そこで僕が使っているのが、LIFULL HOME’Sの不動産売却査定です。仕事でLIFULLさんと一緒になることが多く、仕組みも分かっているので、正直な特徴を書きます。
良い点
- 匿名で査定依頼ができる。 名前や電話番号を出さずに、まず相場感だけ取れる。相続人の一人が兄弟に見せる材料として使いやすい
- 提携約1,700社、最大6社まで同時依頼。地方の実家は大手より地元会社が強いことが多く、地元会社の登録が充実している
- 連絡方法を電話・メール・郵送から選べる。「メール希望」にすれば電話攻勢は避けられる
気をつける点
- 大手不動産会社の登録は少なめ。大手の査定も欲しい場合は別途依頼する
- 会社によって対応の速さにばらつきがある。連絡が来ない会社は候補から外せばいい
- 営業電話をかけたい会社はいる。連絡方法をメールに指定し、「相続登記中で売却時期は未定」と備考に書くと催促はかなり減る
- 査定額が高い会社が良い会社とは限らない。相続案件の経験と、登記の段取りを一緒に組めるかで選ぶ
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よくある質問
Q. 2027年3月31日を過ぎたら、すぐ過料ですか?
A. すぐではありません。法務局が催告をして、それでも申請がない場合に裁判所が過料を判断する流れです。ただし催告からの猶予は短く、戸籍集めが終わっていないと間に合いません。期限前に、せめて相続人申告登記だけは済ませておくことをおすすめします。
Q. 相続登記を自分でやって失敗するとどうなりますか?
A. 書類の不備は法務局から「補正」の連絡が来て、直せば受理されます。取り返しがつかないのは登記より遺産分割協議の内容です。協議書に署名する前に、税理士や司法書士に一度見てもらう価値はあります。
Q. 実家を売るつもりです。相続登記は「相続人全員の共有」にしておけばいいですか?
A. おすすめしません。共有名義だと売却時に全員が売主になり、全員の署名・実印・印鑑証明が毎回必要です。一人でも意見が変われば売れません。売却前提なら、代表者一人の名義にして売却代金を分ける「換価分割」を協議書に書く方法が一般的です。税務上の扱いは税理士に確認してください。
Q. 相続放棄すれば登記しなくていいですか?
A. 放棄すれば登記義務はなくなりますが、知ってから3か月以内に家庭裁判所へ申述し、預金も含めた全財産を手放すことになります。放棄後も管理責任が残る場合があります。実家だけ手放したいなら、相続して売却するか、相続土地国庫帰属制度の検討です。
まとめ
- 相続登記は2024年4月1日から義務。知った日から3年以内、過去の相続分は2027年3月31日まで。正当な理由なく放置すると10万円以下の過料。
- 過料より怖いのは、放置している間に相続人が増えて登記も売却もできなくなること。相続人が兄弟だけのうちに終える。
- 自分でやれば約5万円、司法書士に頼めば約12〜13万円。数次相続や期限が迫っているなら頼んだほうが結果的に安い。
- 話し合いがまとまらないなら相続人申告登記で義務だけ先に履行できる。ただし売れない。買った時間で相場を知り、話し合いの材料を揃える。
- 売却を考えるなら、登記完了と査定を並行する。最初の一歩は、実家の登記名義を330円で確認すること。
僕の実家も、名義の確認から家族の話し合いが始まりました。答えはまだ出ていませんが、「誰が売主になれるのか」は分かった状態で話ができています。
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