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実家を売りたい。でも家族が「親戚が集まる場所だから残したい」と言う。話を持ち出すたびに空気が重くなり、結局なにも決まらないまま年に一度の集まりだけが続く。うちがまさにそれです。
売買の仲介の現場では、「実家をどうするか」で揉める家族を見てきました。そして自分の実家では、昭和初期築の家を「売りたい僕」と「残したい家族」で、いまも話し合いの途中です。
この記事では、現場で見た揉め方のパターンと、揉めずに決めるために僕が実際に使っている話し合いの型、遺産分割の法的な整理、「集まる場所」を残す代替案をまとめます。売れとは言いません。決め方の話です。
数字は2026年9月時点の公開データと、僕の実家での検討をもとにしています。遺産分割・相続登記・税金は個別事情で結論が変わります。最終判断は弁護士・司法書士・税理士にご確認ください。
先に結論
- 実家の話し合いが揉めるのは「売る/売らない」を最初の議題にするから。「残すなら誰が、年いくら払うか」に議題を変えると、感情の対立が費用の分担の話になる。
- 揉める家族は3パターン。感情vs数字、管理費を誰が払うか、共有名義で1人が反対。どれも相場と年間コストが見えていないことが原因。
- 相続で不動産を分ける方法は4つ(現物・代償・換価・共有)。「決められないから共有」が一番後で高くつく。
- 「家」を残せなくても「集まれること」は残せる。売却して近くに小さく住み替える、集まる日だけ場所を借りる、建具や写真を残す。
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話がまとまらない「揉める家族」の3パターン
売却の相談に来る家族のうち、話がまとまらずに帰っていく家族には共通点があります。揉め方は、ほぼ次の3つに分類できます。
| パターン | 典型的なセリフ | 揉める本当の原因 | 解けるきっかけ |
|---|---|---|---|
| 1. 感情vs数字 | 「思い出の家を金に換えるのか」「維持費で毎年赤字だ」 | 片方が気持ち、片方が損得で話していて、土俵が違う | 「残す」にも値段をつけて、同じ土俵に乗せる |
| 2. 誰が管理費を払うか | 「残したいなら兄さんが払ってよ」「俺だけ草刈りに帰ってる」 | 残したい人と、実際に費用と手間を負う人が別 | 費用と手間の分担を先に決める |
| 3. 共有名義で1人が反対 | 「私は判を押さない」 | 相続時に「とりあえず共有」にして、決定権が全員にある | 共有の解消(買取・売却・分割)を別テーブルで話す |
パターン1は、うちの家族がこれです。「親戚が集まる場所がなくなるのは悲しい」に対して、僕が「維持費が年20〜30万円かかる」と返す。どちらも正しいのに、会話が噛み合いません。悲しさと維持費は比べられないからです。
パターン2は、実家の近くに住む兄弟と、遠方に住む兄弟の間で起きます。遠方の人ほど「残したい」と言いやすく、近くの人ほど草刈りと換気と近所への挨拶を背負っています。負担が偏ったまま2〜3年たつと、近くの人が爆発します。
パターン3は、仲介の立場で一番困るパターンです。相続の時に話し合いを先送りして共有名義にすると、売却には共有者全員の同意が必要になります。1人が反対すれば、残りの全員が賛成しても売れません。
⚠️ 失敗メモ|「とりあえず共有」の10年後
兄弟3人で共有にした実家を10年放置し、その間に兄弟の1人が亡くなって持分がその配偶者と子に移り、共有者が6人になった例があります。1人と連絡がつかず、売却は止まりました。共有にするなら「いつまでに解消するか」を同時に決めておくのが回避策です。
揉めない話し合いの型:5ステップ
3パターンに共通するのは、相場と年間コストという「材料」が出ていないことです。材料のない会議は、声の大きい人の意見で決まるか、何も決まらないかのどちらかです。僕が家族に提案し、お客様にも勧めている順番がこれです。
| ステップ | やること | 出てくるもの | 揉めやすいポイント |
|---|---|---|---|
| 1 | 「売る/売らない」を議題にしない | 「この家をどうしたいか」の希望を全員分 | ここで結論を急ぐと感情戦になる |
| 2 | まず相場を取る(匿名で) | 売ったらいくらか、の目安 | 1社の査定を信じない。複数社で幅を見る |
| 3 | 「残すための年間コスト」を表にする | 残す場合の年額と10年累計 | 固定資産税を「親が払っていたから知らない」で止まる |
| 4 | 残したい人が「払う・住む・使う」案を出す | 残す側の具体案(誰が、いくら、何年) | 「みんなで少しずつ」は誰も払わなくなる |
| 5 | 期限を決めて再検討 | 「◯年◯月に、この材料で決め直す」 | 期限なしの保留は、放置と同じ |
ステップ1:「売る/売らない」を議題にしない
最初の話し合いで「売る派」「残す派」に分かれると、以後の全部がその対立の延長になります。僕が最初にやったのは、家族全員に「この家で何を残したいのか」を聞くことでした。うちの場合、答えは「場所」ではなく「正月と盆に親戚が集まること」でした。ここが分かると、後で代替案を出す余地が生まれます。
ステップ2:まず相場を取る
「いくらで売れるか」が分からないと、「残す」ことの値段も分かりません。売ると決めていなくても相場は取っておくべきで、この段階では名前と電話番号を出さずに済む匿名の査定が向いています。理由は後半で書きます。
ステップ3:「残すための年間コスト」を表にする
ここが一番効きます。家を残す場合の費用を1枚の表にして、家族全員に見せます。うちで作った表がこれです。
| 項目 | 年額の目安 | 根拠 |
|---|---|---|
| 固定資産税・都市計画税 | [課税明細書の実額] | 毎年4〜6月に届く納税通知書 |
| 火災保険(空き家は割増) | [保険証券の実額] | 契約中の証券。空き家になると条件が変わる |
| 空き家管理サービス | 6万〜18万円(月5,000〜15,000円) | 空き家パス比較。自分で通うなら交通費と手間 |
| 草刈り・小修繕・光熱費の基本料 | 数万円 | 実績ベース |
| 合計 | 年20〜30万円 | 10年で200〜300万円 |
これに、昭和初期の木造なので「地震で壊れたときの片付け費用」が上乗せされます。金額を見せた瞬間、「残したい」の中身が「年30万円払ってでも残したいか」に変わります。
🔢 数字メモ|固定資産税は軽減後の額
納税通知書の土地の税額は、住宅用地の特例で200㎡以下の部分が課税標準6分の1(都市計画税は3分の1)に軽減された額です(総務省)。「壊して土地だけ残す」案を出すなら、この軽減が外れた税額で表を作り直してください。
ステップ4:残したい人が「払う・住む・使う」案を出す
年間コストが見えたら、残したい人に案を出してもらいます。「自分が年◯万円払う」「自己資金で耐震改修して自分が住む」「民泊や貸家として使って費用を賄う」のどれかです。貸家や民泊は、水回りの修繕費(数十万〜数百万円)と、借り手がつく立地が条件です。ここで「みんなで少しずつ」という案が出たら、僕は反対します。全員の負担は誰の負担でもなくなり、2〜3年で誰も払わなくなるのを何度も見ました。
ステップ5:期限を決めて再検討
決まらなくても構いません。ただし「来年の盆に、また同じ表で話す」と期限を決めます。相場も建築費も動くので、期限のない保留は放置と同じです。うちはまだ相続が起きていないので、登記の期限ではなく「次の集まり」を期限にしています。
法的な整理:遺産分割の4つの方法と、共有名義の放置リスク
実家がまだ親名義なら、いずれ相続で「誰のものにするか」を決めることになります。分け方は4つあり、どれを選ぶかで話し合いの結末が変わります。
| 分割方法 | 内容 | 向いている家族 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 現物分割 | 不動産をそのまま特定の相続人が取得する | 相続人が1人、または他の財産で調整できる | 実家以外に分ける財産がないと不公平になる |
| 代償分割 | 1人が実家を取得し、他の相続人に代償金を払う | 残したい人がいて、その人に資力がある | 代償金を払える資力が必要(裁判所) |
| 換価分割 | 実家を売却して、代金を分ける | 取得したい人がいない。または資力がない | 売却まで共同で管理する期間が生まれる |
| 共有分割 | 複数の相続人が共有で取得する | 決められないときの先送り | 管理や処分で意見が食い違うと問題が生じる(裁判所) |
出典:裁判所「遺産分割Q&A」「遺産分割調停」
「残したい家族」がいる場合の正攻法は代償分割です。残したい人が実家を取得し、他の相続人に相場に応じた代償金を払う。これなら残したい人の本気度が金額で表れ、売りたい人も納得できます。ステップ2で相場を取っておく理由はここにもあります。代償金の額は相場が基準になるからです。
代償金を払える人がいなければ換価分割、つまり売って分けるのが裁判所の資料でも想定されている流れです。
問題は共有分割です。裁判所のQ&Aでも「将来、共有者の間で管理や処分方法などの意見が食い違ったときに、問題が生じる可能性」があると注意書きがあります。実務では、共有名義の実家は次の3点で詰まります。
- 売却・賃貸・大規模修繕に共有者全員の同意が必要
- 共有者の1人が自分の持分だけを買取業者に売ることができ、見知らぬ業者が共有者に入ってくる
- 固定資産税の納税通知書は代表者1人に届き、その人が立て替え続ける
さらに、2024年4月1日から相続登記が義務になりました。相続で不動産を取得したことを知った日から3年以内に登記しないと、10万円以下の過料の対象です。2024年4月1日より前の相続分も、2027年3月31日までに登記が必要です(法務省)。「決まらないから登記もしない」は、もう選べません。
📖 用語メモ|相続人申告登記とは
遺産分割がまとまらなくても、自分が相続人であることを法務局に申し出ることで、相続登記の義務を果たしたことになる制度です(法務省)。相続人の1人が単独で申し出できます。ただし売却するには正式な相続登記が必要なので、あくまで時間を稼ぐ手段です。
🔢 数字メモ|遺産分割にも「10年」の区切り
2023年4月1日施行の民法改正で、相続開始から10年を過ぎると、生前贈与や介護の貢献(特別受益・寄与分)を主張できず、原則として法定相続分で分けることになりました(法務省)。「兄が親の面倒を見たから多めに」という調整は、10年以内に話し合うのが前提です。
なお、話し合いがまとまらない場合は家庭裁判所の遺産分割調停があり、調停が不成立なら審判に移行します(裁判所)。ただし調停まで行った家族は、その後の親戚づきあいが戻らないことが多い。だからこそ、その前の話し合いの型が大事だと考えています。
「家」は残せなくても「集まる場所」は残せる:代替案
ステップ1で聞き出した「何を残したいか」が「集まること」なら、家そのものを残す以外の方法があります。うちで検討している案を並べます。
| 代替案 | 初期費用の目安 | 年間コスト | 「集まること」は残るか | 向いている家族 |
|---|---|---|---|---|
| そのまま残して維持する | 0円(耐震改修をするなら別途) | 20〜30万円+地震で壊れたときの片付け費 | 残る(耐震に不安) | 払う人と管理する人が決まっている |
| 売却して近くに小さく住み替え | 売却代金の範囲内 | 住み替え先の住居費 | 残る(親戚が入る広さが条件) | 親や兄弟の誰かが地元に住み続ける |
| 年数回の集まりは貸し切りの場を借りる | 0円 | 1回数万円×回数 | 残る(場所は変わる) | 集まるのが年1〜3回 |
| 建具・柱・写真を残す | 解体費とは別に数万円〜 | 0円 | 「物」として残る | 家に思い入れが強い親族がいる |
| 建物だけ壊して土地を残す | 解体90万〜150万円(木造30坪) | 土地の税金は特例が外れて上がる | 残らない(更地に集まる人はいない) | 将来誰かが建てる予定がある場合のみ |
売却して近くに小さく住み替えが、僕が家族に出している本命です。実家を売った代金で、親戚が集まれる広さの賃貸か小さな家を近くに用意する。「場所」ではなく「集まれること」を残す考え方で、「実家を売って賃貸に住み替えた」お客様も珍しくありません。
貸し切りの場を借りるは、集まりが年に1〜3回なら圧倒的に安い。年30万円の維持費を払うより、1回5万円の貸し切りを3回借りるほうが、掃除も片付けも不要で、参加者の負担も減ります。
建具・柱・写真を残すは、金額は小さいのに効き目が大きい案です。家族が「残したい」と言っているものの正体が、実は縁側の板や柱の傷や襖の柄だったりします。解体前に写真を撮り、建具を1枚外して住み替え先に持っていくだけで、話し合いの空気が変わることがあります。
📝 現場メモ|解体前に「残す物リスト」を渡す
建具や柱を残したいなら、解体業者に見積の段階で「外して保管する物」を書面で渡してください。口頭だと当日には壊されています。古い建具は買い取る業者もあるので、処分費ではなく収入になることもあります。
僕が家族とどう話しているか
ここからは仕事ではなく家族としての話です。うちの状況と、いまの話し合いの状態を表にします。
| 項目 | うちの場合 |
|---|---|
| 家 | 木造・昭和初期築(築50〜60年超)・敷地約250㎡ |
| 家族の希望 | 正月と盆に親戚が集まる場所を残したい |
| 僕の意見 | 地震が心配。維持費と耐震リスクを考えると売却が合理的 |
| 試した案 | アパート併用(見積3〜5億円・利回り3%で断念)、建て替え(住む人が決まらない) |
| いまの議題 | 「売るか」ではなく「集まる場所をどう残すか」 |
| 決めた期限 | 次の集まりで、相場と年間コストの表を全員で見直す |
正直に言うと、最初は僕も失敗しました。「維持費で年30万円、10年で300万円」と数字を先に出して、家族の「悲しい」を論破しようとしたのです。結果は沈黙でした。数字は正しくても、順番が間違っていました。
やり直したのは、「何を残したいのか」を聞くところからです。「家」だと思っていた答えが「集まること」だと分かって、初めて代替案の話ができるようになりました。いまは「売却して近くに小さく住み替え」と「集まる日だけ場所を借りる」の2案を、相場と年間コストの表と一緒に机に置いて、次の集まりまで保留にしています。
決まってはいません。でも、話し合いが「売るか売らないか」の綱引きではなくなったことが、いまの一番の進捗です。
話し合いの材料に、僕が使っている相場の調べ方
ステップ2の「まず相場を取る」で、僕が使っているのがLIFULL HOME’Sの不動産売却査定です。仕事で一緒になることが多く、仕組みも分かっているので、良い点と気をつける点を正直に書きます。
良い点
- 匿名で査定依頼ができる。 家族と話し合う前の段階で、名前と電話番号を出さずに相場感だけ取れる
- 提携約1,700社、最大6社まで同時依頼。地方は地元会社が強く、LIFULLは地元会社の登録が充実している
- 連絡方法を電話・メール・郵送から選べる
- 複数社の査定を並べると、家族に見せる「相場の幅」が作れる
気をつける点
- 大手不動産会社の登録は少なめ。大手の査定も欲しい場合は別途依頼する
- 会社によって対応の速さに差がある。連絡が来ない会社は候補から外せばよい
- 依頼した各社から連絡は来る。電話が負担なら、申込時に連絡方法をメールにしておく
- 一番高い査定額を家族に見せたくなるが、やめたほうがいい。高い額で家族が「売る」に傾き、後で値下げになると話し合いが振り出しに戻る。査定額の根拠を説明できる会社の額を、幅として見せてください
よくある質問
Q. 兄弟の1人が「絶対に売らない」と言っています。
A. 「売らない」の中身を聞いてください。「自分が住みたい」なら代償分割で、その人が取得して他の相続人に代償金を払う形が正攻法です。「住まないが壊したくない」なら、残すための年間コストを表にして、誰が払うかを議題にします。どちらでもなく感情だけなら、期限を決めて保留し、時間をおくのが現実的です。
Q. 親が元気なうちに実家の話をするのは失礼ではないですか。
A. 失礼どころか、親が元気なうちにしか「親の希望」は聞けません。一番揉めるのは、親の希望が分からないまま兄弟だけで決めるケースです。「この家、将来どうしたい?」の一言を、親が判断できるうちに聞いておいてください。
Q. 共有名義のまま何年も放置しています。何から手をつければいいですか。
A. まず登記簿で共有者と持分を確認します。次に相続登記が済んでいるかを確認し、済んでいなければ2027年3月31日までに登記か相続人申告登記をします。そのうえで、共有者全員に「売る・誰かが買い取る・このまま」の3択で意向を聞いてください。1人でも連絡がつかない人がいる場合は、早めに司法書士か弁護士に相談を。
Q. 話し合いがどうしてもまとまりません。調停しかないですか。
A. 家庭裁判所の遺産分割調停は選択肢ですが、その前に第三者を1人入れることを勧めます。税理士や司法書士など、家族の誰の味方でもない専門家が「数字」を出すと、兄弟間の感情論が収まることが多いです。調停は最後の手段にしてください。
まとめ
- 揉める家族は3パターン。感情vs数字、管理費を誰が払うか、共有名義で1人が反対。原因はどれも「相場と年間コストが見えていない」こと。
- 話し合いの型は5ステップ。「売る/売らない」を議題にしない→匿名で相場を取る→残すための年間コストを表にする→残したい人が払う・住む・使う案を出す→期限を決めて再検討。
- 遺産分割は現物・代償・換価・共有の4つ。残したい人がいるなら代償分割、いなければ換価分割。共有は先送りで、後で一番高くつく。
- 「家」を残せなくても「集まれること」は残せる。近くに小さく住み替える、集まる日だけ借りる、建具や写真を残す。
- 僕の家族もまだ途中。決まったら続きを書きます。
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