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仕事では、お客様と「実家をどうするか」を一緒に考えてきました。
その僕が、自分の実家では答えを出せずにいます。
実家には古い家が建っています。地震のニュースを見るたびに心配になる。建て替えも売却も検討しました。家族は「親戚がよく集まる場所だから跡地がなくなるのは悲しい」と言う。だったらと、実家とアパートを一体にした建物を計画しましたが、出てきた見積は3億〜5億円、利回りは3%。建築費の高騰で計画として成り立たず断念しました。いまは新しく家を建てる話も出ています。
正直に言うと、僕は売却したほうがいいと思っています。この記事では、その結論に至るまでに何を数字で確かめたのか、プロとしての判断と家族としての気持ちがどうぶつかったのかを、そのまま書きます。
同じ状況の方が「うちの場合は何から確認すればいいか」を持ち帰れるように、最後に匿名で相場を知る方法もまとめました。
数字は2026年9月時点の公開データと、僕自身の検討時の見積をもとにしています。個別の税務は税理士等にご確認ください。
先に結論
- 築古の実家は「建て替え」「アパート併用」「売却」の3案を、感情ではなく建築費と利回りと維持費で並べると、2026年の建築費ではアパート併用が最初に消える。僕の場合は見積3〜5億円で利回り3%、しかも頭金20%=6,000万円以上が用意できず、入口で終わった。
- 建て替えは「誰がそこに住むか」が決まっていないと、数千万円かけて別の空き家を作ることになる。
- 売却が合理的でも、家族の「残したい」は無視できない。先に相場を知ってから話し合うと、議論が数字ベースになって揉めにくい。
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実家の現状と、悩みの出発点
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 建物 | 木造。建築年は不詳で、昭和初期に建ったと聞いている。少なくとも築50〜60年 |
| 敷地 | 約250㎡(約75坪) |
| 状況 | 親のひとりが住んでいる。登記名義もその親で、相続はまだ起きていない |
| 家族の意向 | 親戚が集まる場所として跡地を残したい |
| 僕の考え | 数字で見ると売却が合理的だと感じている |
悩みの出発点は地震です。建築確認の記録も残っていない昭和初期の木造で、当然ながら旧耐震以前の建物です。築40年を超えた木造は基礎や接合部の劣化が進みますが、うちは築50年を優に超えています。「この家に親戚が集まっているときに揺れたら」と考えると、現状維持は選択肢から外れました。
📖 用語メモ|旧耐震と新耐震
1981年6月1日に建築基準法の耐震基準が改正され、それ以前の確認申請で建った家が旧耐震。旧耐震は震度5程度で倒壊しないことが目安で、新耐震は震度6強〜7でも倒壊しないことを求める。相続空き家の3,000万円控除の「1981年5月31日以前築」はこの線引き。
そこで検討したのが3案です。
- 建て替える(家族が住む家を新築)
- アパートと実家を併用した建物を建てる(収益で建築費を回収)
- 売却する
案1:アパート併用を先に検討して、なぜ断念したか
最初に考えたのはアパート併用でした。1階または一部を家族の住まいにして、残りを賃貸に出す。家賃収入で建築費のローンを返し、実家の場所も残る。家族の希望と収益の両立ができる、一番きれいな案に見えました。
見積は3億〜5億円だった
2025年の統計では、木造住宅の坪単価は全国平均で74.6万円。木造アパートは地域差が大きく、坪38.9万円から108.7万円まで開きがあります。しかも統計値には付帯工事や諸費用が含まれず、首都圏の実勢は2〜3割上振れするのが実態です。
実家の敷地は約250㎡、75坪ほどです。自宅部分を確保したうえで事業として成り立つ戸数を取ろうとすると、木造2階では収まりません。建ぺい率と容積率を最大限使う前提でプランを引くと、RC造の7〜8階建てが最も効率の良い形になりました。この時点で「アパート」ではなく中規模マンションの事業です。複数社から出てきた総事業費は、プランによって3億円から5億円でした。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 計画 | 自宅+賃貸1LDK×16〜18戸、RC造7〜8階建て(建ぺい率・容積率からの最適解) |
| 間取りの考え方 | 1Kは周辺に競合が多く空室リスクが高いと判断し、最低でも1LDKで試算 |
| 総事業費 | 3億〜5億円(プランにより) |
| 想定家賃収入(年) | 約900万〜1,500万円 |
| 表面利回り | 約3% |
利回り3%は「回らない」数字
アパート経営で所有者が最低限見るのは、総事業費に対する年間家賃収入の割合(表面利回り)です。地方なら8%前後、都市部でも6%台は欲しい。そこから固定資産税、管理費、修繕積立、空室損を引いた実質利回りで、ローン返済後に手元に残るかを見ます。
3億円で利回り3%の計画を、仮に3億円全額を金利1.5%・35年で借りたとして試算すると、こうなります。
| 項目 | 年額(概算) |
|---|---|
| 家賃収入(満室) | 900万円 |
| 空室損10%・管理費5%・固定資産税・修繕積立 | ▲250万〜300万円 |
| ローン返済(3億円・1.5%・35年) | ▲約1,100万円 |
| 手残り | ▲450万〜500万円(年間赤字) |
家賃を全部返済に回しても足りず、毎年数百万円を持ち出す計画です。しかも自宅部分は家賃を生まないので、その分の建築費は純粋な持ち出しになります。
⚠️ 失敗メモ|30年一括借上げの家賃減額
土地活用の営業で「30年サブリースで空室リスクなし」と聞いて建てた所有者が、10年目に家賃を2割下げられ返済が回らなくなった例を何度も見た。サブリースの家賃は契約書の見直し条項で下がる。提案書の利回りは、減額後の家賃で引き直す。
金利は上昇局面。1.5%で借りられる保証もない
しかもこの試算は金利1.5%の前提です。相談している信用金庫の担当者からは「いまは上昇局面で、1.5%は正直きついかもしれない」と言われました。金利が動くと返済額はこう変わります。
| 借入条件(35年・元利均等) | 年間返済額 | 家賃900万円-経費275万円-返済 |
|---|---|---|
| 3億円・1.5% | 約1,100万円 | ▲約475万円 |
| 3億円・2.0% | 約1,190万円 | ▲約565万円 |
| 3億円・2.5% | 約1,290万円 | ▲約665万円 |
| 2.4億円(頭金2割)・2.0% | 約950万円 | ▲約325万円 |
頭金を2割入れて借入を2.4億円に抑えても、金利2%なら年300万円以上の赤字です。利回り3%の事業は、金利が1%動くだけで収支が100万円単位で崩れます。金利上昇局面で35年間これを背負う判断は、僕にはできませんでした。
そもそも頭金が用意できない
数字以前の問題もありました。3億円規模の事業ローンは、金融機関から自己資金2割前後を求められるのが普通です。つまり頭金6,000万円から1億円。手元にそんな現金はありません。
利回りが合わないうえに、入口の頭金でも止まる。お客様にこの計画を持ち込まれたら「やめましょう」と言う数字です。
人に勧められない数字の計画を、自分の実家でやるわけにはいかない。 ここでアパート併用は消えました。
案2:建て替えは「誰が住むか」で決まる
次に出たのが、シンプルに新しい家を建てる案です。
木造30坪なら本体で2,200万〜2,700万円、解体と外構と諸費用を足すと3,000万円前後が目安になります。金額そのものより、僕が引っかかったのは次の問いでした。
- その家に、誰が、何年住むのか
- 親戚が集まるのは年に何回か。そのために年間いくらの維持費(固定資産税・保険・修繕)を払うのか
- 将来その家を相続する人は、住む予定があるのか
住む人が決まっていない新築は、数千万円かけて次の世代の空き家を作ることになります。全国の空き家は900万戸、そのうち売る予定も貸す予定もない「その他の空き家」が385万戸。僕はその1軒を自分で増やしたくありませんでした。
一方で、家族の誰かが本気で住むなら、建て替えは十分に合理的です。その場合は、複数のハウスメーカー・工務店のプランと見積を並べることから始めてください。1社の提案で決めると、坪単価の差だけで数百万円変わります。
⚠️ 失敗メモ|親名義の土地に子が建てた家
親の土地に子が自宅を建てると、親の相続で土地の分け方でもめる。地代を払わない使用貸借だと土地の相続税評価も下がらず、他の兄弟に代償金を求められた例を見た。建て替えるなら、建物と土地の名義をどうするか、兄弟も含めて先に決める。
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案3:売却が合理的だと考える3つの理由
理由1:維持費は「持っているだけ」で年20〜30万円
固定資産税、火災保険、草刈りや換気の管理。空き家管理サービスを使えば月5,000〜15,000円。合計すると年20〜30万円、10年で200〜300万円が「思い出のため」に出ていきます。
理由2:放置すると税金が最大6倍になるリスク
2023年12月の法改正で「管理不全空家」の区分ができ、自治体の勧告を受けると住宅用地の特例が外れ、土地の固定資産税が翌年度から最大6倍になります。屋根や外壁の破損、雑草の越境が基準です。築古の家を遠方から管理し続けるのは、プロでも現実的ではありません。
理由3:相続後なら3,000万円控除が使える期限がある
相続した空き家を売ると、譲渡所得から最大3,000万円を控除できる特例があります。1981年5月31日以前の建築であること(うちのような昭和初期の家は当然該当します)、相続から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること、制度自体は2027年12月31日までという期限があります。相続人が3人以上なら1人2,000万円。これを逃すと、数百万円の税金差になります。
この3つを並べると、数字の上では売却が最も損をしない選択でした。
🔢 数字メモ|譲渡所得の税率は20.315%
相続した家は親の取得日を引き継ぐので、築50年超ならほぼ長期譲渡。税率は所得税15%・住民税5%・復興特別所得税0.315%の合計20.315%(国税庁 No.3208)。3,000万円控除がないと、利益2,000万円で約400万円の税金になる。
それでも「残したい」家族とどう話したか
ここからは、仕事ではなく家族としての話です。
親戚が集まる場所がなくなるのは悲しい。この気持ちは正しいし、数字で論破するものではありません。僕が実際にやったのは、気持ちを否定せずに選択肢を数字つきで並べることでした。
| 選択肢 | 初期費用 | 年間維持費 | 「集まる場所」は残るか |
|---|---|---|---|
| 現状維持 | 0円 | 20〜30万円+耐震リスク | 残る(安全性に不安) |
| 建て替え | 約3,000万円 | 30〜40万円 | 残る(住む人が必要) |
| アパート併用 | 3〜5億円(頭金6,000万円〜) | 年間赤字 | 残る(利回り3%で不成立) |
| 売却 | 片付け・測量で50〜100万円 | 0円 | 残らない |
| 売却して近くに小さく住み替え | 売却益の範囲内 | 家賃または小規模住宅 | 「集まる場所」は作れる |
最後の行が、僕が今提案している案です。実家を売り、その資金で親戚が集まれる広さの賃貸や小さな家を近くに用意する。「場所」ではなく「集まれること」を残す考え方です。売買の仲介の現場でも「実家を売って賃貸に住み替えた」というお客様は珍しくありません。
話し合いで効いたのは、僕の意見ではなく「いくらで売れるのか」という具体的な数字でした。相場が分かると、「残す」ことにいくら払うのかが家族全員に見えます。
📝 現場メモ|家族会議で使う査定額
査定書には「査定価格」と「売出提案価格」があり、営業上、後者は高めに出る。家族に見せるのは、複数社の査定価格のうち低いほうから2番目くらいが現実的。高い数字で計画を組むと、後で値下げになったときに家族の信頼を失う。
まず「匿名で相場を知る」から始める
売るかどうか決めていなくても、相場は知っておくべきです。相場が分からないと、建て替えの予算も、残す場合のコスト比較も、全部が空論になります。
ただ、いきなり不動産会社に来店すると営業がかかります。まだ迷っている段階では、それが負担で動けなくなる人が多い。
そこで僕が使っているのが、LIFULL HOME’Sの不動産売却査定です。仕事でLIFULLさんと一緒になることが多く、仕組みも分かっているので、正直な特徴を書きます。
良い点
- 匿名で査定依頼ができる。 名前や電話番号を出さずに、まず相場感だけ取れる
- 提携約1,700社、最大6社まで同時依頼。地方は大手より地元会社が強いことが多く、LIFULLは地元会社の登録が充実している
- 連絡方法を電話・メール・郵送から選べる。「メール希望」にすれば電話攻勢は避けられる
- 東証プライム上場企業の運営で、個人情報の扱いはISMS認証
気をつける点
- 大手不動産会社の登録は少なめ。大手の査定も欲しい場合は別途依頼する
- 会社によって対応の速さにばらつきがある。連絡が来ない会社は候補から外せばよい
- 査定額が高い会社が良い会社とは限らない。根拠を説明できる会社を選ぶ。高い数字より、説明の中身で比べてください
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よくある質問
Q. 空き家バンクに出せば売れますか?
A. LIFULL HOME’S空き家バンクは国土交通省のモデル事業で、自治体経由で無料掲載できます。移住希望者向けで、成約は物件と自治体次第です。並行して通常の査定も取り、両方の反応を比べることをおすすめします。
Q. 建て替えとアパート併用、地域によっては成り立ちますか?
A. 成り立ちます。駅近や大学・工場の近くで賃貸需要が強く、自己資金が厚く、規模を抑えて木造で建てられるなら計算は変わります。僕の場合は規模が大きくなりすぎたのが敗因でした。ただし2026年の建築費で試算し、表面利回りではなく手残りで判断してください。
Q. 売却に家族が反対しています。
A. 「売る/売らない」ではなく「残すためにいくら払うか」を数字で並べると議論が進みます。まず相場を取ることが、その最初の材料になります。
Q. 親がまだ実家に住んでいます。
A. 今すぐ売る必要はありません。ただし、親が施設に入る・亡くなるタイミングで一気に決断を迫られます。元気なうちに相場と選択肢を家族で共有しておくと、その時の負担が全く違います。
まとめ
- 3案を建築費・利回り・維持費で並べると、2026年の建築費ではアパート併用が最初に消えた。
- 建て替えは「住む人」が決まっていることが条件。決まっていないなら次の空き家を作るだけ。
- 売却が合理的でも、家族の「残したい」は数字で論破しない。相場を先に知って、「残すためのコスト」を全員で見る。
- 迷っている段階なら、匿名で相場を知ることから始める。
僕自身、まだ最終決断はしていません。決まったら、この続きも書きます。
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