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「実家の土地を手放したくない。だからアパートを建てて、家賃で建築費を返しながら残す」
土地活用の営業でも、相続相談でも、いちばんよく聞く筋書きです。僕も仕事で、お客様にこの案を検討してもらったことが何度もあります。
そして自分の実家でも、真っ先にこれを検討しました。結果は断念。見積は3億〜5億円、利回りは3%、頭金は6,000万円以上。この記事では、その試算をそのまま公開します。
「うちの実家ならどうか」を判断する材料にしてください。結論だけ先に言うと、2026年の建築費と金利では、土地が広くて自己資金が厚い人以外、実家アパートはかなり厳しいです。
数字は2026年9月時点の公開統計と、僕自身が複数社から取った見積をもとにしています。金利は金融機関からの正式提示がないため一般的な仮定です。相続税や譲渡所得などの税務、融資条件は個別に異なります。実行前に税理士・金融機関にご確認ください。
先に結論
- 敷地約250㎡(75坪)で事業として成り立つ戸数を取ると、RC造7〜8階建て・16〜18戸になり、総事業費は3〜5億円。
- 表面利回り3%は、返済を引くと毎年数百万円の赤字。金利が1%動くだけで収支が100万円単位で崩れる。
- 頭金2割=6,000万円以上が用意できず、そもそも入口で止まった。
- 「残すためにアパート」は、残すためのコストが最も高い選択肢になりうる。まず土地の相場を知ってから比べる。
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実家の条件と、見積が出るまでの3ステップ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 建物 | 木造、昭和初期築(築年不詳、50〜60年以上) |
| 敷地 | 約250㎡(約75坪) |
| 家族の希望 | 親戚が集まる場所として跡地を残したい |
| 僕の役割 | 計画・見積取得・収支試算 |
ステップ1:建ぺい率・容積率から「建てられる形」を出す
土地活用の最初の作業は、その土地に何がどれだけ建てられるかを確認することです。建ぺい率(敷地に対する建築面積の上限)と容積率(敷地に対する延床面積の上限)で決まります。
うちの実家は、容積率を使い切るとRC造7〜8階建てが最も効率の良い形でした。ここで気づくべきでした。これは「アパート」ではなく、中規模マンションの事業です。
木造住宅の坪単価は全国平均で74.6万円(archi-book、2025年)。木造2階建てのアパートなら、この水準が目安になります。ところが僕が取ったRC造の見積は坪100万円を超え、さらに付帯工事や諸費用が乗って、実勢は統計の坪単価より2〜3割上の金額になりました。
📝 現場メモ|最大案と木造案を両方頼む
設計事務所やハウスメーカーは、容積率を使い切る最大プランを最初に出す。頼むときに「木造3階で収まる規模」の案も並べてもらうと、坪単価と戸数のバランスが見える。事業費が半分でも利回りが上がることは珍しくない。
ステップ2:間取りと戸数を決める
戸数を稼ぐなら1Kです。しかし僕は最初から1Kを外しました。理由は、周辺に1Kの競合が多く、空室対策で家賃を下げ合う消耗戦になるのが見えていたからです。賃貸の仲介の現場で、1Kの空室が埋まらない物件を見てきたうえでの判断です。
最低でも1LDK。その前提で引くと、自宅部分を除いて16〜18戸の計画になりました。
🔢 数字メモ|新築は既存の空室と競う
全国の空き家900万2千戸のうち、売る予定も貸す予定もない「その他の空き家」385万6千戸を除いた約500万戸は、賃貸用・売却用・二次的住宅(総務省 令和5年住宅・土地統計調査)。その大半が賃貸用の空室で、新築アパートの本当の競合は隣の新築ではなくこの既存ストック。
ステップ3:見積を取る
複数社から出てきた総事業費は、プランによって3億円から5億円。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 計画 | 自宅+1LDK×16〜18戸、RC造7〜8階建て |
| 総事業費 | 3億〜5億円 |
| 想定家賃収入(年・満室) | 約900万〜1,500万円 |
| 表面利回り | 約3% |
家賃は周辺相場から1LDKで月5万〜7万円台を想定しています。戸数を掛けると年900万〜1,500万円。総事業費で割ると利回りは3%前後にしかなりません。
利回りと頭金:計画が「回らない」と分かった2ステップ
ステップ4:利回りが「回るか」を見る
表面利回り3%が何を意味するか。所有者が実際に見るのは、返済後の手残りです。
経費を引く
| 項目 | 年額(概算) |
|---|---|
| 家賃収入(満室) | 900万円 |
| 空室損(10%) | ▲90万円 |
| 管理委託費(5%) | ▲45万円 |
| 固定資産税・都市計画税 | ▲80万〜100万円 |
| 修繕積立・原状回復 | ▲50万〜60万円 |
| 経費計 | ▲約275万円 |
| 返済前の手残り(NOI) | 約625万円 |
返済を引く
金利は金融機関から正式な提示がないため、仮定で3パターン置きます。
| 借入条件(35年・元利均等) | 年間返済額 | 手残り |
|---|---|---|
| 3億円・1.5% | 約1,100万円 | ▲約475万円 |
| 3億円・2.0% | 約1,190万円 | ▲約565万円 |
| 3億円・2.5% | 約1,290万円 | ▲約665万円 |
| 2.4億円(頭金2割)・2.0% | 約950万円 | ▲約325万円 |
どのパターンでも赤字です。家賃を全部返済に回しても足りず、毎年数百万円を給料から補填する計画になります。しかも自宅部分は家賃を生まないので、その分の建築費は純粋な持ち出しです。
金利は上昇局面にあり、相談した信用金庫の担当者からは「1.5%は正直きついかもしれない」と言われました。利回り3%の事業は、金利が1%動くだけで年100万円単位で収支が崩れます。これを35年背負う判断はできませんでした。
📖 用語メモ|DSCR(返済余裕率)
上の表の「返済前の手残り(NOI)」を年間返済額で割った値。金融機関は一般に1.2〜1.3以上を融資の目安にする。うちは625万円÷1,100万円で0.57。融資審査の土俵に乗る前に、数字で終わっていた。
ステップ5:そもそも頭金が用意できない
数字以前の壁もありました。3億円規模の事業ローンでは、金融機関は自己資金2割前後を求めるのが普通です。総事業費に当てはめると、必要な現金はこうなります。
| 総事業費 | 自己資金2割 | 借入額 |
|---|---|---|
| 3億円 | 6,000万円 | 2.4億円 |
| 4億円 | 8,000万円 | 3.2億円 |
| 5億円 | 1億円 | 4億円 |
つまり頭金6,000万円から1億円。手元にその現金はありません。頭金を入れれば返済は軽くなりますが、上の表のとおり2.4億円まで借入を抑えても年300万円以上の赤字は消えませんでした。
利回りで無理、頭金で無理。お客様にこの計画を持ち込まれたら「やめましょう」と言う数字でした。
では、実家アパートが成り立つのはどんな条件か
自分の失敗を一般化すると、成り立つ条件は次の4つです。
| 条件 | 目安 | うちの実家 |
|---|---|---|
| 賃貸需要が強い | 駅徒歩10分以内、大学・工場・病院が近い、単身・DINKS流入がある | △ |
| 木造2〜3階で収まる | 容積率を使い切らず、坪単価を抑えられる | ×(RC7〜8階が最適解) |
| 自己資金が厚い | 総事業費の2〜3割を現金で出せる | × |
| 表面利回り | 地方8%以上、都市部6%以上 | ×(3%) |
4つのうち3つが×なら、やらない。これが僕の判断基準です。
逆に、木造2階建て8戸程度で1億円以内に収まり、自己資金3,000万円が出せて、表面利回り7%が見込める土地なら、2026年でも検討の余地はあります。ただし必ず複数社のプランと見積を比べて、営業が出す利回りではなく自分で組んだ経費表で判断してください。
⚠️ 失敗メモ|相続税対策で建てた末路
「借金でアパートを建てれば相続税が減る」と勧められて建て、10年後に空室で返済が回らず土地ごと手放した例を見た。節税額より赤字の累計が大きければ本末転倒。そもそも相続税がかかる財産額かを、建てる前に税理士に確認する。
「残す」ためのコストを、他の選択肢と並べる
家族の「跡地を残したい」という気持ちに応えるためにアパート案を出したのに、その案が一番お金のかかる残し方だった。これが今回の教訓です。
| 選択肢 | 初期費用 | 年間収支 | 跡地は残るか |
|---|---|---|---|
| アパート併用 | 3〜5億円(頭金6,000万円〜) | ▲300万〜600万円 | 残る |
| 建て替え(自宅のみ) | 約3,000万円 | ▲30万〜40万円(維持費) | 残る(住む人が必要) |
| 現状維持 | 0円 | ▲20万〜30万円+耐震リスク | 残る |
| 売却 | 片付け・測量50万〜100万円 | 0円 | 残らない |
| 売却して近くに小さく住み替え | 売却益の範囲内 | 家賃または小規模住宅 | 「集まる場所」は作れる |
建て替えの約3,000万円は、木造30坪を坪74.6万円で建てた本体約2,200万円に、既存の解体90万〜150万円(坪4〜6万円)と外構・諸費用を足した目安です。現状維持の年20万〜30万円は、固定資産税と火災保険に、空き家管理サービス(月5,000〜15,000円)を足した金額です。どちらも「住む人」か「見に行く人」がいて初めて成り立ちます。
この表を家族に見せて初めて、議論が「売る/売らない」から「残すためにいくら払うか」に変わりました。
そのためには、いちばん下の「売却したらいくらか」が必要です。売る気がなくても、相場は取っておくべきです。
📝 現場メモ|比較は更地価格で
アパート用地としての価値は、建物付きの査定額ではなく「更地価格から解体費を引いた額」。査定依頼のときに「更地想定の価格も教えてほしい」と添えると、活用と売却が同じ土俵で比べられる。ハウスメーカーの提案書には、この土地代がまず載らない。
相場は匿名で取れる
売るかどうか決めていない段階で不動産会社に来店すると、営業がかかって動けなくなる人が多い。これは断言できます。
僕が使っているのはLIFULL HOME’Sの不動産売却査定です。仕事で一緒になることが多く、仕組みを知っているので正直に書きます。
良い点
- 匿名で査定依頼ができる。 名前も電話番号も出さずに相場感が取れる
- 提携約1,700社、最大6社まで同時依頼。地方は大手より地元会社が強く、LIFULLは地元会社の登録が多い
- 連絡方法を電話・メール・郵送から選べる
気をつける点
- 大手不動産会社の登録は少なめ。大手の査定も欲しければ別途依頼する
- 会社によって対応の速さに差がある。連絡が来ない会社は候補から外せばよい
- 匿名をやめて連絡先を出した後は営業電話が来る。連絡方法を「メール希望」にしておけば避けられる
- 査定額が高い会社ではなく、根拠を説明できる会社を選ぶ。高い数字より、説明の中身で比べてください
よくある質問
Q. ハウスメーカーの土地活用提案では利回り8%と言われました。
A. その利回りが「表面」か「実質」か、家賃が「新築時」か「10年後」か、経費に空室損と修繕積立が入っているかを確認してください。この記事の経費表に当てはめ直すと、たいてい2〜3ポイント下がります。
Q. 賃貸併用住宅なら住宅ローンが使えて金利が安いのでは?
A. 自宅部分が延床の50%以上なら住宅ローンが使える金融機関があります。ただし戸数が減るので家賃収入も減ります。規模が小さい土地では選択肢になりますが、うちのように7〜8階が最適解になる土地では成り立ちませんでした。
Q. 建てずに駐車場や貸地にするのは?
A. 初期費用が小さく、やめるのも簡単なので「時間を稼ぐ」用途には向きます。ただし住宅を取り壊すと住宅用地の特例(200㎡以下は課税標準1/6)が外れて土地の固定資産税が上がる点と、収入がその税金を少し上回る程度にしかならない点は覚悟が必要です。
まとめ
- 実家の敷地250㎡で事業戸数を取るとRC造7〜8階建てになり、総事業費3〜5億円、利回り3%。
- 返済を引くと毎年数百万円の赤字。金利上昇局面ではさらに悪化する。
- 頭金2割=6,000万円以上が出せず、入口で止まった。
- 「残すためのアパート」は最も高い残し方になりうる。まず土地の相場を匿名で取り、家族と「残すためのコスト」を数字で見る。
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