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親が老人ホームや介護施設に入る。それ自体が大きな決断なのに、同時に「実家はどうする」という問題が始まります。
仲介の現場では、この二つを別々に考えて失敗する家族を何度も見ました。施設の費用を実家の売却で賄うつもりが、親の判断能力が落ちて売れなくなった。逆に、急いで売ったら親が「帰りたい」と言い出した。
この記事では、介護と実家を同時に、順番を間違えずに進めるための手順をまとめます。僕自身、昭和初期築の実家をどうするかで悩んでいる当事者でもあります。
税務・法務(3,000万円控除、成年後見、家族信託など)の個別判断は税理士・司法書士等にご確認ください。数字は2026年9月時点の公開データです。
先に結論
- 親の判断能力があるうちに、「実家をどうするか」を親自身の言葉で決めてもらい、記録に残す。
- 施設費用の原資に実家の売却を充てるなら、売却は入居前後の早い段階で動く。認知症が進むと本人名義の家は売れなくなる。
- 「まだ売らない」場合でも、相場と維持費は今すぐ把握する。年20万〜30万円の維持費を何年払うかで判断が変わる。
- 生前に売るなら、住まなくなった日から3年目の年末という3,000万円控除の期限を先に確認する。
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施設探しと実家の話は、同時に始める
親が施設に入るとき、家族の頭は施設選びでいっぱいになります。当然です。ただ、実家について「落ち着いてから考えよう」と後回しにすると、次の3つの問題が同時に来ます。
| 後回しにすると起きる問題 | 何が起きるか | 先に打つ手 |
|---|---|---|
| 費用 | 有料老人ホームは入居一時金0円〜数千万円、月額15万〜30万円が目安。年金だけで足りず、実家の売却が原資になる家庭は少なくない | 施設の月額と年金・預貯金を並べ、不足分をどこから出すか決める |
| 判断能力 | 本人名義の家を売るには本人の意思確認が必要。認知症が進むと売買契約ができず、成年後見制度を使うしかなくなる。成年後見での自宅売却は家庭裁判所の許可が要り、時間も費用もかかる | 判断能力があるうちに親の意思を聞き、記録する(ステップ1) |
| 空き家 | 人が住まなくなった家は劣化が早い。管理不全空家として自治体の勧告を受けると、翌年度から住宅用地の特例が外れ、土地の固定資産税が最大6倍になる | 売らないなら管理を仕組みにする(ステップ5) |
だから順番は、施設探しと実家の方針決めを同時にです。
施設探しは、地域と予算と介護度で絞れる検索サービスを使うと早い。LIFULL介護は掲載施設数が多く、資料請求や見学予約がまとめてできます。施設の月額が見えれば、実家をいつ・いくらで売る必要があるかが逆算できます。
📝 現場メモ|入居後3か月は売却を急がない
入居直後に「帰りたい」と退所する例は珍しくない。現場の感覚では、本契約から3か月ほどは実家に手を付けず、親が落ち着いてから売却に動くほうが後悔が少ない。ただし査定と片付けの見積は、その間に済ませておく。
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ステップ1:親の意思を確認して記録する
最初にやることは、不動産会社に行くことではありません。親に「この家をどうしたいか」を聞くことです。
| 親に聞くこと | 聞き方 | 残し方 |
|---|---|---|
| 売ってもいいか。売るならいつか | 「施設の費用をどう組み立てるか一緒に考えたい」と切り出す | 日付入りでメモ。兄弟姉妹全員に共有 |
| 誰かに住んでほしいか | 「家を誰かに使ってもらう案もある」と選択肢を見せる | 候補者の名前と条件まで書く |
| 「帰るかもしれないから残してほしい」か | 否定せず、「いつまで残すか」を一緒に決める | 期限(例:入居から2年)を書く |
聞き方のコツは、「売る?」と二択で迫らないことです。費用の話から入ると、家の話に自然につながります。
決まったことは日付入りでメモに残し、できれば兄弟姉妹全員で共有してください。後で「そんなこと言ってない」になるのを防ぎます。判断能力に不安が出始めているなら、この段階で司法書士に相談し、任意後見や家族信託を検討します。どちらを使うか、そもそも使えるかは親の状態と家族構成で変わるので、自分たちだけで決めないでください。
📖 用語メモ|任意後見と家族信託
任意後見は、判断能力があるうちに後見人と権限を公正証書で決めておく制度で、発効後は家庭裁判所が選ぶ監督人が付く。家族信託は実家の管理・売却の権限を契約で子に移す方法で、認知症が進んだ後も裁判所の許可なしに売れる。費用は数十万円から。
ステップ2:名義と権利関係を確認する
| 確認事項 | 確認先 | なぜ必要か |
|---|---|---|
| 所有者は誰か(親単独か、亡くなった配偶者との共有か) | 登記事項証明書(法務局、オンライン請求で数百円) | 亡くなった親の名義が残っていると、先に相続登記が必要 |
| 抵当権が残っていないか | 同上 | 完済していても抹消登記が残っているケースがある |
| 境界は確定しているか | 測量図、隣地との立会記録 | 未確定だと売却時に測量費(数十万円)と数か月かかる |
| 固定資産税の課税明細 | 毎年春に届く通知書 | 維持費の計算と、住宅用地特例の確認 |
ここで「亡くなった父の名義のまま」が判明する家は本当に多いです。相続登記は2024年4月1日から義務で、相続を知った日から3年以内に登記しないと10万円以下の過料の対象です。過去の相続分も2027年3月31日が期限です(法務省)。
⚠️ 失敗メモ|共有名義で売れなくなった例
父の相続で実家を兄弟3人の共有にし、母の施設費用のために売ろうとしたら、1人が海外転勤で署名が取れず半年止まった例を見た。共有者全員の同意がないと売れない。相続登記のときに代表者1人の名義にまとめておくと、この事態を避けられる。
ステップ3:3つの選択肢を維持費つきで並べる
親が施設に入った後の実家は、大きく3択です。
| 選択肢 | 向いている状況 | 費用・収支 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 売る | 施設費用の原資が必要。誰も住む予定がない | 仲介手数料(上限は売却価格の3%+6万円+税)、遺品整理は2LDKで10万〜20万円が相場 | 親の意思確認と判断能力が前提 |
| 貸す | 建物が健全で賃貸需要がある。将来戻る可能性を残したい | 最低限の修繕・清掃費が先に出る。家賃は地方の戸建なら月数万円が多い | 借主がつかないと回収できない。定期借家で期間を区切る |
| 管理して持つ | 親が「帰りたい」と言っている。判断を先送りしたい | 年20万〜30万円(固定資産税、保険、管理サービス月5,000〜15,000円) | 「何もしない」は管理ではない。5年で100万円超 |
貸す場合の家賃と修繕費は、地域と建物の状態で幅が大きすぎて一般論では書けません。仲介の感覚で言うと、築40年超の戸建は「貸せる状態にする費用」が家賃の2〜3年分を超えることが珍しくなく、そうなると売るか持つかの二択に戻ります。
生前に売る場合の税金
親が住んでいた家を親自身が売る場合、居住用財産の3,000万円特別控除が使えます。施設に入居した後でも、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売れば対象です(国税庁 No.3302)。これを過ぎると控除が使えなくなり、税額が数百万円変わることがあります。
相続後に売る場合は別の特例(相続空き家の3,000万円特別控除)があり、こちらは1981年5月31日以前の建築、相続から3年目の年末までの売却が要件で、制度自体の期限は2027年12月31日までです(国税庁 No.3306)。どちらが有利かは家の築年と親の状況で変わるので、売るタイミングを決める前に税理士に確認してください。
📝 現場メモ|入居後の死亡でも控除は使える
相続空き家の3,000万円控除は、親が施設で亡くなった場合も、入居前に要介護認定を受け、その家を貸したりしていなければ対象になる(国税庁 No.3306)。分かれ目は入居前の要介護認定の有無。認定を受けてから入居する順番が、後の税金に効く。適用可否は税理士に確認を。
ステップ4:相場を知る。ただし営業は受けない
方針を決めるには「いくらで売れるか」が要ります。ここで多くの家族がつまずくのは、相場を知ろうとして不動産会社に行った途端、営業が始まって身動きが取れなくなることです。
相場の知り方は、大きく次の4つです。
| 方法 | 分かること | 営業の有無 | 向いている段階 |
|---|---|---|---|
| 不動産会社に来店 | 訪問査定つきの精度の高い価格 | 来店した時点で営業対象になる | 売ると決めた後 |
| 匿名の一括査定 | 複数社の机上査定。相場の幅 | 連絡方法を選べば抑えられる | 迷っている今 |
| ポータルサイトで近隣の売出価格を見る | 売り手の希望価格(成約価格ではない) | なし | 最初の当たりをつける |
| 固定資産税評価額から逆算 | 土地のおおよその下限 | なし | 課税明細が手元にあるとき |
まだ迷っている段階では匿名で査定を取るのが正解です。
僕が使っているのはLIFULL HOME’Sの不動産売却査定です。仕事で一緒になることが多く、仕組みも分かっているので、良い点と気をつける点を分けて書きます。
良い点
- 匿名で依頼できる。名前や電話番号を出さずに相場感が取れる
- 提携約1,700社、最大6社まで。地方は地元会社が強く、LIFULLは地元会社の登録が多い
- 連絡方法を電話・メール・郵送から選べる。「メール希望」にすれば営業電話は避けられる
気をつける点
- 大手不動産会社の登録は少なめ。大手の査定も欲しければ別途依頼する
- 会社によって対応速度に差がある。連絡が遅い会社は候補から外せばよい
- 査定額の高さではなく根拠で選ぶ。高い査定額で家族会議をすると、後で値下げになったときに信頼を失う
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ステップ5:「まだ売らない」なら、管理を仕組みにする
親が「帰りたい」と言う、家族がまだ決めきれない。それなら売らなくていい。ただし放置はしない。
| 管理項目 | 頻度 | 自分でやる場合 | 任せる場合 |
|---|---|---|---|
| 換気・通水・郵便物の回収 | 月1回 | 交通費と半日 | 管理サービス 月5,000〜15,000円 |
| 外観確認(屋根・外壁・雑草) | 月1回 | 同上 | 「郵便局の空き家みまもり」月額4,280円(毎月1回・外観確認のみ) |
| 火災保険 | 契約時に1回 | 契約内容を「空き家」に変更(居住用のままだと支払われないことがある) | 代理店に相談 |
| 再検討の期限 | 家族で1回決める | 「入居から2年で再検討」など日付で決める | — |
期限を決めないと、そのまま10年経ちます。管理サービスを年12万円払い続けるのと、売って現金にするのと、どちらが親と家族のためになるかは、期限を切ってはじめて比べられます。
🔢 数字メモ|空き家900万戸・13.8%
全国の空き家は900万2千戸、住宅全体の13.8%で過去最多。うち売る・貸す予定のない「その他の空き家」が385万6千戸(総務省 令和5年住宅・土地統計調査)。親の施設入居で空いた家は、期限を決めないままこの数に入っていく。
よくある質問
Q. 親が認知症と診断されました。もう売れませんか?
A. 診断名だけで決まるわけではなく、契約時に意思能力があるかで判断されます。軽度なら医師の診断書を添えて売買できるケースもあります。難しい場合は成年後見制度を使い、家庭裁判所の許可を得て売却します。早めに司法書士へ相談してください。
Q. 兄弟の一人が「実家は残せ」と言って進みません。
A. 「残す/売る」ではなく「残すために年いくら払い、誰が払うか」を数字で示すと議論が進みます。維持費年20万〜30万円を、残したい人が負担する形で合意するケースもあります。
Q. 空き家バンクに登録しておけばいいですか?
A. LIFULL HOME’S空き家バンクは自治体経由で無料掲載でき、移住希望者に届きます。ただし成約は物件と自治体次第なので、通常の査定と並行してください。
Q. 施設の費用が足りるか分からないまま、実家を売っていいですか?
A. 先に施設の月額と年金・預貯金を並べて、不足額と何年分かを出してください。不足がなければ急いで売る理由はなく、親の「帰りたい」を優先できます。不足があるなら、生前売却の3,000万円控除の期限内に動くのが原則です。
まとめ
- 施設探しと実家の方針は同時に始める。後回しにすると費用・判断能力・空き家の3つの問題が一度に来る。
- 最初にやるのは親の意思確認と記録。次に名義と権利関係の確認。
- 売る・貸す・持つを維持費つきで並べる。生前売却の3,000万円控除には「住まなくなった日から3年目の年末」という期限がある。
- 相場は匿名で取る。営業を受けずに数字だけ手に入れてから家族で決める。