相続放棄すれば実家は手放せる?管理義務の落とし穴と相続土地国庫帰属制度の使い方

相続放棄すれば実家は手放せる?管理義務の落とし穴と相続土地国庫帰属制度の使い方

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「実家なんていらない。相続放棄すれば済む話でしょう」。仲介の現場で、親を亡くしたばかりのお客様からこの言葉を何度も聞きました。気持ちは分かります。遠方の古い家を、自分の代でどうにかしろと言われても困る。

僕自身、昭和初期に建った築50年超の実家をどうするか、まだ答えを出せていません。家族と話し合いながら、売却・建て替え・国に引き取ってもらう制度まで、ひととおり調べました。

結論から言うと、相続放棄は「実家だけを捨てる」制度ではなく、使い方を間違えると管理の責任だけが残ります。この記事では、放棄の基本、2023年に変わった管理義務のルール、国庫帰属制度の本当の総額、そして放棄・国庫帰属・売却・空き家バンク・持ち続けるの5つを費用と期間で並べます。3か月の期限内に何をどの順で確かめるべきかも書きました。

数字は2026年9月時点の裁判所・法務省の公開情報にもとづきます。相続放棄と国庫帰属は取り消しがきかない手続きです。個別の判断は必ず弁護士・司法書士にご確認ください。

先に結論

  • 相続放棄は「全財産をまとめて放棄」する手続き。実家だけ捨てて預金は受け取る、はできない。期限は相続を知ってから3か月。
  • 放棄しても、その時点で実家を現に占有していれば保存義務が残る(改正民法940条)。相続人全員が放棄すると、相続財産清算人の選任で予納金(目安20万〜100万円)が必要になる。
  • 国庫帰属制度は「建物を壊してから」が前提。手数料1.4万円+負担金20万円だけでなく、解体費込みで110万〜170万円前後を見る。
  • 手放し方は5つ。どれを選ぶにも、先に「いくらで売れるか」を匿名で確かめるのが判断の出発点になる。

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相続放棄の基本:「実家だけ」は放棄できない

相続放棄は、家庭裁判所に「私は相続人になりません」と申し出る手続きです。ここで最初に押さえてほしいのは、放棄の対象が相続財産の全部だということです。

項目内容
期限自分のために相続があったことを知ったときから3か月以内(熟慮期間)
窓口亡くなった方の最後の住所地の家庭裁判所
費用収入印紙800円(申述人1人につき)+郵便切手。戸籍謄本などの取得費は別
効果最初から相続人でなかったことになる。実家も預金も株もすべて受け取れない
次に起きること同順位の相続人がいなくなると、次の順位(親→兄弟姉妹)に相続権が回る
取り消し原則できない

出典:裁判所「相続放棄の申述」

現場で誤解が多いのは次の2点です。

1つ目。実家だけを選んで放棄することはできません。 「田舎の家はいらないが、預金は分けたい」なら放棄は使えず、相続したうえで家を処分する道になります。

2つ目。放棄しても、実家は消えません。 あなたが放棄すると、相続権は兄弟姉妹、その次は親、さらに亡くなった方の兄弟姉妹へと順に回ります。実家の問題を「誰かに回す」だけになりやすく、疎遠の叔父叔母に突然、家庭裁判所から通知が届くこともあります。放棄を考えるなら、次に相続権が回る人に先に伝えておくのが筋です。

📖 用語メモ|熟慮期間の伸長

3か月で財産の全容が分からないときは、期限内に家庭裁判所へ「相続の承認又は放棄の期間の伸長」を申し立てられる。認められれば期限が延びる。親の借金や不動産の数が不明なときに使う手続きで、放棄そのものではない。

⚠️ 失敗メモ|遺品を売ったら放棄できない

放棄前に実家の家財を売る、預金を引き出して使うなどの「処分」をすると、相続を承認したとみなされ(法定単純承認、民法921条)、放棄が認められなくなることがある。片付けは放棄の可否を決めてから。形見分け程度なら問題ないとされるが、迷ったら手をつけない。

放棄しても管理義務が残る?改正民法940条の落とし穴

「放棄したのに、市役所から雑草の苦情が来た」。これは珍しい話ではありません。理由は民法940条にあります。

2023年4月1日施行の改正で、放棄した人の義務は「管理義務」から「保存義務」に整理され、対象が絞られました。改正前は、遠方に住んで一度も家に行っていない人にまで責任が及びかねない条文でしたが、改正後は放棄の時点で実家を「現に占有している」人だけが、次の相続人か相続財産清算人に引き渡すまで、その家を自分の財産と同じ注意で保存する義務を負います。

状況保存義務実務上の見方
実家に同居していた残る典型的な「現に占有」
別居だが鍵を持ち、年数回通って草刈り・換気をしていた残る可能性が高い事実上管理している状態は占有と見られやすい
遠方に住み、鍵も持たず一度も関与していない原則なし改正で明確に除外された
相続人全員が放棄した占有者は清算人に引き渡すまで残る相続財産清算人の選任が必要

出典:民法940条(2023年4月1日施行)。個別のケースは弁護士・司法書士にご確認ください。

相続人全員が放棄したときの費用

兄弟全員が放棄し、叔父叔母も放棄すると、実家は「相続人のいない財産」になります。この財産を処分するには、家庭裁判所に相続財産清算人の選任を申し立てる必要があり、申立てには費用がかかります。

費用金額出典
収入印紙800円裁判所「相続財産清算人の選任」
官報公告料5,582円同上
予納金相続財産から清算人の報酬などを賄えない見込みの場合に納付。実務では20万〜100万円程度が目安裁判所(納付の可能性を明記)/ベンナビ相続ほか法律事務所の公開情報

予納金は清算人の報酬や管理費用の立て替えです。売れない実家しか財産がないケースでは、まさに「賄えない見込み」なので、数十万円の納付を求められるのが普通です。放棄したのに数十万円払う。これが放棄の一番の落とし穴です。

現場で見た例

相続人の一人が放棄したあとも、実家の鍵を持ったまま、年に2〜3回は草刈りに通っていました。放棄が受理されて「もう自分のものではない」と足が遠のき、翌年の夏に隣家から枝の越境と雑草の苦情が入り、自治体からも連絡が来ました。相談を受けた司法書士の見立ては、「放棄時点で現に占有していたので、引き渡すまで保存義務がある」。結局この方は、ほかの相続人も全員放棄していたため清算人の選任を申し立て、予納金を負担しました。放棄の手続きは正しかったのに、費用と手間は減らなかった例です。

📝 現場メモ|引き渡した証拠を残す

保存義務は「次の相続人か清算人に引き渡すまで」続く。次順位の相続人に鍵を渡すときは、日付入りの引渡書と家の状態の写真を残す。口頭だけだと、あとで「いつ引き渡したか」で揉め、破損や苦情の責任を問われる余地が残る。

相続土地国庫帰属制度の使い方:「建物を壊してから」が前提

「いらない土地を国に引き取ってもらえる」制度が、2023年4月27日に始まった相続土地国庫帰属制度です。ただし名前のとおり土地の制度で、建物が建っていると申請自体が却下されます。実家の場合、解体してからでないと入口に立てません。

項目内容
申請できる人相続または遺贈で土地を取得した人。共有なら共有者全員で申請。制度開始前に相続した土地も対象
前提相続登記を済ませ、申請者名義になっていること
審査手数料土地1筆あたり1万4,000円(収入印紙。却下・不承認でも返らない)
負担金承認後に納付。宅地は原則20万円。ただし市街化区域・用途地域内の宅地は面積で算定(100㎡超200㎡以下は2,450円×㎡+30万3,000円。200㎡なら79万3,000円)
却下される土地(申請不可)建物がある/担保権が付いている/境界が明らかでない/土壌汚染がある など
不承認になる土地崖がある/管理を妨げる工作物や樹木がある/隣地と争いがある など
審査期間標準処理期間は8か月(法務省Q&A)。書類の補正にかかる期間は含まれず、事案によっては超える

出典:法務省「相続土地国庫帰属制度の概要」「負担金について」

木造30坪の実家、敷地200㎡、市街化区域外という条件で、手放すまでの総額を出すとこうなります。

費目金額の目安備考
解体(木造30坪)90万〜150万円坪4〜6万円。自治体の解体補助金(1/3〜1/2、上限50万〜150万円)は着工前申請
建物滅失登記0円〜数万円自分で申請すれば登録免許税はかからない。土地家屋調査士に頼めば報酬が別途
境界確定測量(必要な場合)数十万円境界杭がなく隣地との確認が必要なら。僕が見た範囲では30万〜80万円が多い(現場の目安。公的な相場統計はない)
審査手数料1万4,000円1筆ごと
負担金20万円市街化区域・用途地域内の宅地なら200㎡で79万3,000円
合計(境界問題なし・自分で申請)約111万〜171万円市街化区域・用途地域内なら+約59万円、測量が要れば+数十万円

「20万円で国が引き取ってくれる」と思っていた方には、桁が違う数字だと思います。そのうえ、解体して更地にすると翌年度から住宅用地の特例が外れ、承認までの間の固定資産税は上がります。それでも、売れる見込みがまったくない土地を子や孫に残さないための出口としては、現時点で最も確実な制度です。

🔢 数字メモ|国庫帰属の実績は約3年で3,008件

法務省の統計(令和8年7月31日現在)で、申請5,863件に対し帰属3,008件、却下85件、不承認96件、取下げ1,102件。取下げのうち392件は「却下・不承認になると判明」した案件で、申請前の要件確認で落ちる例が多い。宅地の帰属は1,115件。

5つの手段を「期間・費用・条件・残るリスク」で比べる

放棄と国庫帰属だけを見ていると、売却の可能性を見落とします。現場の感覚では、「売れない」と思い込んでいた実家の半分近くは、買取業者なら値段がつきました。5つを同じ物差しで並べます。

手段手放せるまでの期間費用条件残るリスク
相続放棄相続を知って3か月以内に申述印紙800円+戸籍代。全員放棄なら予納金(目安20万〜100万円)期限内。財産に手をつけていない預金なども失う。現に占有なら保存義務。相続権が親族に回る
国庫帰属解体・登記に2〜3か月+審査約8か月約111万〜171万円(解体込み)相続登記済み。建物なし・境界明確・担保なし不承認でも解体費と手数料は戻らない
売却(仲介)3か月〜1年超仲介手数料(800万円以下は上限33万円税込)。片付け・測量が別途買い手がつく立地・価格売れない間の維持費と管理責任
売却(買取)数週間〜1か月仲介手数料なし。価格は相場の6〜8割が目安(僕の現場感。公的統計はない)。値がつかなければ持ち出し業者が再販できる立地安値。契約不適合責任の免責内容を確認
空き家バンク数か月〜数年掲載無料。成約時の手数料は自治体・提携業者による自治体がバンクを運営している決まらない間は維持費と管理責任が続く
そのまま持つ―目安で年20万〜30万円(固定資産税・保険・管理)。管理サービスは月5,000〜1万5,000円相続登記(2027年3月31日までに過去分も)管理不全空家の勧告で税が最大6倍。次の世代に同じ問題が移る

仲介手数料の上限は国交省告示(2024年7月改正の低廉な空家等の特例)、その他は本サイトの共通データによる。

見てほしいのは、放棄が「一番安く早い」とは限らないという点です。全員放棄の予納金と、国庫帰属の解体費は、どちらも数十万〜百万円台。一方、買取なら費用ゼロで、しかも数十万円でも現金が入ることがあります。順序として、放棄や国庫帰属は「売却の値段を確かめたあと」に検討する手段です。

📝 現場メモ|買取価格の決まり方

買取業者は「再販できる価格-解体・造成費-自社の利益」で値を出す。だから解体費を上回る再販価格が見込めない土地はゼロかマイナスになる。逆に言えば、解体費相当の値引きを受け入れれば仲介でも売れることが多い。査定は仲介と買取の両方から取ると、この差が見える。

3か月の期限内に、何をどの順で確かめるか

相続放棄には3か月の期限があります。この期間に「放棄すべきか」を判断するには、実家の値段を知らないと始まりません。僕が相談を受けたときに案内している順番です。

時期やること目的
死亡を知った日〜1週間知った日を記録。通帳・借入・不動産の一覧を作る。遺品の処分はしない期限の起算日を確定し、単純承認を避ける
〜2週間実家の相場を匿名で査定。買取業者にも1〜2社当たる「売れるか・値段がつくか」を数字で把握
〜1か月兄弟と次順位の親族に状況を共有。弁護士・司法書士に相談全員放棄になるか、誰かが相続して売るかを決める
〜2か月相続する場合:相続登記の準備。放棄する場合:申述書と戸籍を揃えるどちらに転んでも動けるようにする
〜3か月放棄なら申述。決めきれないなら期間伸長の申立て期限切れで自動的に相続(単純承認)になるのを防ぐ

ポイントは2週目です。相続放棄も国庫帰属も、実家の値段を知らないまま決めると、「売れば数百万円になった家を、数十万円払って手放した」ということが起こります。逆に、査定額がゼロやマイナスだと分かれば、放棄や国庫帰属を選ぶ根拠になります。査定は「売るため」ではなく「放棄を判断するため」に取る。この順番なら、3か月の期限にも間に合います。

⚠️ 失敗メモ|放棄後に「売れた」と知った例

田舎の実家を「どうせ売れない」と全員で放棄し、清算人の予納金を払ったあと、清算人が数百万円で売却した例を見た。売却益は国庫に入り、相続人には戻らない。放棄の前に、仲介と買取の両方から値段を取っていれば避けられた。

僕が使っている「匿名で相場を知る」方法

売るかどうか決めていなくても、相場は知っておくべきです。ただ、親を亡くした直後に不動産会社へ足を運ぶと、営業がかかります。まだ放棄するかも決めていない段階では、それが負担で動けなくなる人が多い。

そこで僕が使っているのが、LIFULL HOME’Sの不動産売却査定です。仕事でLIFULLさんと一緒になることが多く、仕組みも分かっているので、正直な特徴を書きます。

良い点

  • 匿名で査定依頼ができる。 名前や電話番号を出さずに、まず相場感だけ取れる
  • 提携約1,700社、最大6社まで同時依頼。地方は大手より地元会社が強いことが多く、地元会社の登録が充実している
  • 連絡方法を電話・メール・郵送から選べる。「メール希望」にすれば電話攻勢は避けられる
  • 買取に対応する会社も含まれるので、「値がつくかどうか」の判断材料になる

気をつける点

  • 大手不動産会社の登録は少なめ。大手の査定も欲しい場合は別途依頼する
  • 会社によって対応の速さにばらつきがある。連絡が来ない会社は候補から外せばよい
  • 査定額が高い会社が良い会社とは限らない。根拠を説明できる会社を選ぶ
  • 「査定額ゼロ」の返事も情報です。ゼロが複数社から返ってきたら、国庫帰属や放棄を本気で検討する段階だと分かります

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よくある質問

Q. 相続放棄をしたら、固定資産税の請求は来なくなりますか?

A. 固定資産税は1月1日時点の登記名義人に課税されます。親名義のままだと、自治体が相続人代表あてに納付書を送ることがあり、放棄を証明する「相続放棄申述受理通知書」の写しを自治体に提出して対応する必要があります。放棄すれば自動的に止まるわけではありません。

Q. 実家の建物を壊さずに国庫帰属制度は使えませんか?

A. 使えません。建物がある土地は却下事由です。解体費が出せないなら、先に買取業者に「建物付きのまま」の値段を聞いてください。解体費を差し引いた価格でも、持ち出しゼロで手放せるなら国庫帰属より安く済みます。

Q. 兄弟のうち、私だけ相続して売ることはできますか?

A. できます。ほかの兄弟が放棄すれば、あなたが単独で相続し、相続登記をしてから売却や国庫帰属に進めます。ただし放棄した兄弟は預金も受け取れないので、預金は相続して実家だけあなたが引き受ける「遺産分割協議」のほうが現実的なことが多いです。司法書士に相談してください。

Q. 3か月を過ぎてしまいました。

A. 原則は単純承認とみなされますが、「借金の存在を知らなかった」など事情によっては、知ったときから3か月として認められることがあります。自分で判断せず、すぐ弁護士に相談してください。

まとめ

  • 相続放棄は全財産の放棄。実家だけは捨てられず、次の親族に相続権が回る。期限は3か月。
  • 放棄しても、実家を現に占有していれば保存義務が残る。全員放棄なら清算人の予納金(目安20万〜100万円)。
  • 国庫帰属は建物を壊してから。解体込みで約111万〜171万円が現実的な総額。
  • 放棄も国庫帰属も、「いくらで売れるか」を知ってから決める。買取なら費用ゼロで手放せることがある。
  • 手続きは取り消しがきかない。弁護士・司法書士への確認を挟む。

僕の実家は、いまのところ売却に傾いています。相続放棄も国庫帰属も、僕の場合は「相場を知ったうえで、それでも手放せないとき」の手段だと思っています。

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