K物件(建物は2棟)に続く3棟目として検討した築30年超・軽量鉄骨10戸のM物件は、買えませんでした。診断書と塗装の見積を根拠に、売り出し7,000万円から1,000万円以上下げて指値が通り、支店の担当の方からは「行きましょう」と言ってもらっていたのに、本部の審査で融資期間は10年が限界という結論になったからです。この回は、そこまでの記録と、買えなかったことで分かったことをまとめます。
きっかけは「収支トントン」の築古を買った知人の戦略
きっかけは、仕事で知り合った方の何気ない一言でした。私がK物件を買ったと聞いて、本当に物件を買った方です。物件探しを一緒にして、県外まで一緒に見に行ったこともあります。その方が最終的に買ったのは、築20年超の軽量鉄骨という、なかなかの築古物件でした。
なぜその物件なのか、戦略を聞きました。答えはこうです。築年数は古いけれど、サブリース契約がついていて賃料が保証されている。毎月の賃料から修繕費の積み立てと固定資産税を払うと、収支はちょうどゼロくらい。家賃で返済だけを進めて、返済が終わったところで売却し、そこで初めて収入を得る。時間を味方につける戦略です。
ただ、私には毎月の収支トントンは合いません。私は100部屋を目指しています。部屋数が増えれば、突発的な修繕にも対応でき、1室が空いたときの影響も小さくなります。そこへ行くには、次の物件を買うための現金を貯め続ける必要があり、手残りゼロの物件はその現金を生みません。同じサブリースで持つなら、キャッシュフローがプラスになることが最低条件。そう考えて探し始めて見つけたのが、M物件でした。
M物件のスペック:築30年超・軽量鉄骨・土砂災害警戒区域
| 項目 | M物件 |
|---|---|
| 場所 | 広島県内 |
| 築年数 | 築30年超 |
| 構造 | 軽量鉄骨造・2階建(大手ハウスメーカー施工) |
| 戸数・間取り | 全10戸・1LDK〜2LDK |
| 現況 | ほぼ満室 |
| 契約 | サブリース(一括借上)付き |
| 売り出し価格 | 7,000万円 |
| 想定利回り | 9%前後 |
| 立地 | 土砂災害警戒区域・坂の上(徒歩や自転車ではきつい) |
「サブリース付きで、キャッシュフローがプラスになる物件」という条件には、ぴったり合っていました。一方で、一般の方が資料を見たら、たぶん「そんなにいい物件じゃない」と判断すると思います。私もそう思います。
それでも買おうと思った3つの理由
1つ目は土地勘です。賃貸の仲介をしていたころ、私はこのエリアで働いていて、この物件そのものに何度もお客さんを案内していて、愛着がありました。
2つ目は、1棟目が新築だったことです。次は築古が欲しい、それもハウスメーカーが建てた築古が欲しいと思っていたところに、ちょうど当てはまる物件が出てきました。
3つ目が問題で、YouTubeのネタになりそうだったからです。7,000万円の物件を買う動機としては、まともではありません。ただ、私にとっては合理的な判断でもありました。私にはYouTubeやSNS、研修やセミナーの仕事があるので、物件を買った体験そのものを動画にも研修にも、この連載にもできます。物件は家賃だけでなく、話せるネタを生む資産でもあります。
もちろん収支のシミュレーションはして、大きくコケることはないという数字は確認しました。それでも、この「ネタになる」という一押しがなければ、買い付けまでは入れなかったと思います。M物件は、実績の少ない私が勝ち筋のある物件を少しずつ買っていくための実験でもありました。
30年診断書と塗装見積580万円を根拠に指値を入れた
物件の目星がついた段階で、まず信用組合に軽く打診に行きました。買い付けも診断書も見積もない時点です。融資の土台に乗らない物件なら、売主さんに書類を出してもらい、業者さんに現地を見てもらっても、相手に手間をかけさせるだけで終わるからです。相談先は、K物件のときに私を断った2つの信用組合のうちの1つ。今回は7,000万円で、K物件の実績もあります。感触は悪くなく、「これなら進めてみましょう」という空気を確かめてから動き始めました。
M物件には、施工したハウスメーカーが数年前に実施した30年診断書がありました。内容は、なかなかのものでした。
- 外壁の含水率が規定値の30%を大きく超える48.6%。別の箇所では測定器が振り切れて「HHH」と表示
- 建物に3/1000〜6/1000の傾き
- 基礎コンクリートに0.5mmを超えるクラック
- 外壁面材の反り・浮き、固定ビスのパテの剥がれ(雨水が入る恐れ)
- 外壁塗膜のチョーキング、シーリングの膨れ、外部鉄骨階段の塗膜剥離と腐食
以前に外装のリフレッシュ工事をしていた棟だけは含水率が規定値内で、状態はかなり良好でした。やることは多い。けれど、ここまで具体的に分かっていれば修繕費も具体的に出せます。
自分でもインスペクション(建物状況調査)を頼もうと2〜3社に連絡しましたが、返事がないか、あっても遅い。その中で即レスしてくれたのが、インスペクションもする塗装会社の職人さんでした。塗料メーカーが作った独自の診断書まで用意してくれて、喫茶店と現場で2回ほど、細かく丁寧に打ち合わせをしてくれました。この人と一緒に仕事ができたら楽しいだろうな、と思った方です。
見積は屋根と外壁の塗装で合計約580万円(税込)。足場、高圧洗浄、外壁の下地調整とコーキング打ち替え、外壁3回塗り、屋根の遮熱塗料での3回塗り、鉄部の錆止めと、診断書の指摘に1つずつ対応する内容でした。
この診断書と見積を並べて、「買ってすぐ、これだけの修繕費が必要になります」と売主さんに数字で説明しました。含水率の高い箇所は、雨水の浸入元を特定する工事も要ります。買った後に出ていくお金を先に見せたわけです。結果、売り出しから1,000万円以上下がった金額で着地し、想定利回りは9%から11%近くまで上がる計算になりました。
「行きましょう」から「融資期間は10年が限界でした」へ
金額が固まり、最初に打診した信用組合へ正式に融資の相談に行きました。担当の方の反応は「めっちゃいいですね。プロパーで行けそうです。行きましょう」。保証協会の保証を付けず、金融機関が自分のリスクで貸すプロパー融資は、K物件のときに何度も断られた私にとって「会社を認めてもらえた」という意味でした。期間は30年で相談していました。築30年超に30年は強気ですが、それなりの期間は出ると思っていました。
診断書も見積も揃い、あとは本部審査が終われば契約だけ。そこで届いたのが「融資期間は10年が限界でした…」という一言でした。支店は通したかった。でも本部で期間が決まった。
10年がどれくらい厳しいか、金利をK物件と同じ2.5%と仮定し、6,000万円を借りた場合で試算したのが下の表です。家賃は想定利回り9%前後から、年約630万円・月約52万円としています。
| 項目 | 相談していた条件(30年) | 本部の結論(10年) |
|---|---|---|
| 借入額・金利(仮定) | 6,000万円・2.5% | 6,000万円・2.5% |
| 毎月の返済額 | 約23万7,000円 | 約56万6,000円 |
| 家賃収入(月) | 約52万円 | 約52万円 |
| 家賃−返済 | 約28万円残る | 満室でも約5万円の赤字 |
| 判断 | 固定資産税・修繕費・管理費を払っても手元に残る | 成立しない(見送り) |
10年返済だと、満室でも家賃より返済の方が多くなります。「厳しい」ではなく「成立しない」です。築30年超の軽量鉄骨に30年貸すのは金融機関から見れば無茶で、判断が間違っているとは思いません。
10年になった理由と、2026年春に感じた金融機関の空気の変化
理由は3つ重なっていたと思っています。1つ目は建物です。軽量鉄骨の法定耐用年数は最長でも27年(国税庁「耐用年数(建物/建物附属設備)」)で、築30年超はとうに超えています。耐用年数を過ぎた建物にどう期間を出すかは金融機関ごとに違い、私はそこを支店の手応えだけで判断してしまいました。融資期間の決まり方は築古アパートの融資期間は何で決まる?で整理しています。2つ目は立地で、土砂災害警戒区域にあることが担保の評価に響いたと考えています。
3つ目が、私にとって一番大きな話です。M物件の融資を進めていたのは2026年の春。このころ、金融機関の融資姿勢が変わったと感じました。これは私の推測で、金融機関から説明があったわけではありません。金利が上がれば同じ家賃でもキャッシュフローは薄くなり、金融機関はリスクの高い案件から絞り始める。築古で利回りが高く、担保評価の低い物件、つまりM物件そのものです。支店が前向きだったのに本部で10年になったのは、本部の基準がこの時期に変わっていたからではないか。数か月前なら、同じ物件・同じ私でももう少し長い期間が出ていたかもしれない、と思える節がありました。
「築古の高利回り物件を長期融資で買って、キャッシュフローで回す」という入口が、ちょうど通ろうとした瞬間に狭くなった。そう感じています。「築古高利回りで買えました」という体験談の多くは以前の融資環境のもので、今は同じ物件・同じ人でも同じ条件が出ない可能性があります。
買えなかった日に決めたこと:この入口では戦わない
その日は落ち込みました。「10年が限界」と聞いた瞬間に頭の中で数字が動き、成立しないとすぐ分かりました。2回も打ち合わせをして診断書まで作ってくれた職人さんと、仲介の方に断りの連絡を入れました。動画やセミナーへ広がるはずだったものも、全部なくなりました。
K物件のときは、売主の社長さんの紹介という信用の借り物がありました(第1回)。今回は自分の信用で、自分で見つけた物件を、自分で買おうとして、買えなかった。金融機関から見た私の現在地が、はっきり分かった日でした。
それでも決めたのは、「物件を追わない」ではなく「この入口では戦わない」ということです。地元の信用組合に、築古の高利回り物件を長期で貸してもらう。その入口に何度ぶつかっても結果は変わりません。だから、融資を相談する相手を変える。物件の見方を変える。場合によっては、事業そのものを増やす。そして、K物件を1年きちんと運営して決算を良くし、返済実績を積むことが、次の物件への一番の近道だと考えています。
この回で分かったこと
- 指値は「気持ち」ではなく、診断書と見積書という根拠で入れると、売主さんに数字で説明できました
- 「行けそう」は「行ける」ではない。支店の手応えは本部の決裁ではありません
- 築古を買うなら、その金融機関が築古にどう融資期間を出すかを、物件を探す前に確認します
- 金融機関の基準は動く。「今の環境で成立するか」は契約直前まで疑う必要があります
- 2.5億円を借りた実績だけでは、自分の信用はまだ足りない。運営と返済の実績を積みます
出典
- 国税庁 確定申告書等作成コーナー「耐用年数(建物/建物附属設備)」 https://www.keisan.nta.go.jp/r5yokuaru/aoiroshinkoku/hitsuyokeihi/genkashokyakuhi/taiyonensutatemono.html
もっとくわしく(note の元記事)
畠山の活動報告・賃貸経営のこれまで
- 第1回:フルローン2.5億円で1棟目を買うまで|金融機関2つに断られて分かった融資の見られ方
- 第2回:元金据え置きと買った後の400万円、管理会社の変更|フルローンでも現金は要る
- 第3回:融資期間10年で見送った築古7,000万円のM物件|指値の根拠と金融機関の変化(この記事)
