結論:融資期間は「法定耐用年数の残り」を土台に、金融機関ごとの基準で決まる
築古アパートの融資期間は、建物の構造ごとに決まった法定耐用年数から築年数を引いた「残り」を土台に、金融機関がそれぞれの基準で決めます。残りがゼロの建物でも期間が出る金融機関はありますが、何年出るかは本部の決裁で決まり、支店の手応えとは別です。期間が短いと返済が家賃を上回り、どんなに利回りが高くても収支は成立しません。
この記事では、耐用年数の表、期間の決め方の3パターン、期間が変わると返済がどう変わるかの試算、支店と本部の二段階審査、検討した物件で期間が出ずに見送った話、築古を買う前に確かめる順番、を書きます。
前提:法定耐用年数は「建物の寿命」ではなく税の計算の年数
法定耐用年数は、減価償却資産の耐用年数等に関する省令で構造と用途ごとに決まっている、減価償却の年数です。住宅用の建物は次のとおりです(国税庁「耐用年数(建物/建物附属設備)」)。
| 構造(住宅用) | 法定耐用年数 | 築20年の残り | 築30年の残り |
|---|---|---|---|
| 木造 | 22年 | 2年 | 0年 |
| 軽量鉄骨(骨格材の厚さ3mm以下) | 19年 | 0年 | 0年 |
| 軽量鉄骨(3mm超4mm以下) | 27年 | 7年 | 0年 |
| 重量鉄骨(4mm超) | 34年 | 14年 | 4年 |
| 鉄筋コンクリート(RC) | 47年 | 27年 | 17年 |
この年数は、建物があと何年住めるかを示すものではありません。木造でも築40年で普通に貸せている建物はいくらでもあります。ただ、金融機関が融資期間を決めるときの出発点がこの表なので、築古を買う人は自分の物件の「残り」を先に知っておく必要があります。軽量鉄骨は骨格材の厚さで19年か27年かが変わり、建築確認の書類や施工したメーカーの資料で確認します。
期間の決め方は3パターン。金融機関で違う
| 決め方 | 中身 | 築30年の軽量鉄骨(27年)なら |
|---|---|---|
| 残存耐用年数で厳密に | 法定耐用年数 − 築年数。残りがなければ原則出ない、または最短 | 残り0年。出ないか、ごく短い |
| 経済的耐用年数で独自に判定 | 構造・修繕の履歴・診断の結果から「あと何年使えるか」を金融機関が決める | 診断と修繕計画しだいで15〜25年の例もある |
| 一律の上限を置く | 耐用年数を超えた建物は「最長10年」「最長15年」のように上限で切る | その金融機関の上限(10年など) |
同じ建物でも、相談する金融機関で期間が2倍以上違うことがある、ということです。だから築古の検討は「物件を決めてから融資」ではなく、「この構造・この築年なら何年出るか」を先に金融機関に聞くのが順番です。聞くときは「支店の感触」ではなく「本部の基準」を聞きます(理由は後述)。
期間が変わると、返済はこう変わる
6,000万円を金利2.5%・元利均等で借りた場合の月々の返済額です(計算の例。金利・方式で変わります)。
| 融資期間 | 月々の返済 | 年間の返済 |
|---|---|---|
| 30年 | 約23.7万円 | 約284万円 |
| 20年 | 約31.8万円 | 約382万円 |
| 10年 | 約56.6万円 | 約679万円 |
この物件の家賃収入が月50万円だとすると、30年なら返済後に26万円残り、そこから固定資産税・管理費・修繕費を払えます。10年だと返済だけで家賃を6万円超えます。満室でも赤字です。利回りが高く見える築古物件ほど、「何年で借りられるか」が収支のすべてを決めます。返済額から逆算する考え方は住宅ローンの選び方と同じですが、賃貸経営では「家賃 − 返済」がプラスでないと始まらない点が違います。
支店の「行けそう」は、本部の「行ける」ではない
金融機関の融資は、支店が案件を作り、本部の審査部門が決裁する二段階です。支店は日ごろの付き合いがあるので前向きになりやすく、本部は数字と規定で判断します。担当者の「これなら行けそうです」は、本部に上げる前の感触であって、決裁ではありません。
もう一つ、融資には保証会社(信用保証協会など)の保証を付ける「保証付き」と、金融機関が自分の判断だけで貸す「プロパー」があります。プロパーは「この会社なら自分たちのリスクで貸せる」という判断なので、言われると嬉しいものです。ただ、プロパーで行く方針になっても、期間を決めるのは本部の基準です。つなぎ融資や分割実行のある住宅ローンと同じで、金融機関の内側の仕組みを知っておくと、言葉の重みを読み違えません。
検討した物件で、期間が10年と出て見送った
上の話は、本で読んだ知識ではなく、実際に止まった経験から書いています。
実体験メモ
- いつ:2026年の夏
- どこで:3棟目として検討した、法定耐用年数を過ぎた軽量鉄骨造のアパート(所在・築年・戸数・金額などの詳細は書きません)
- やったこと:物件を決める前に金融機関へ打診し、感触がよかったので、建物の診断書を取り寄せ、塗装の見積もりを取り、修繕費を根拠に指値を入れて金額をまとめた。そのうえで正式に融資を申し込んだ
- 結果:本部の審査で融資期間は10年が上限。30年なら回る収支が、10年では手残りが出ず、成立しないと分かって見送った
- わかったこと:最初の打診で聞くべきだったのは「進められそうか」ではなく「この構造・築年で、本部の基準では何年出るか」だった。支店の手応えで動き始めると、売主や業者に手間をかけたうえで止まる。1つの例で、金融機関や時期で結果は変わる
金利が上がり始めた時期と重なっていたので、「2026年の春ごろから金融機関が築古や高利回りの案件に慎重になったのではないか」とも感じました。これは数字で裏が取れた話ではなく、当事者としての推測です。ただ、数か月前なら同じ物件で長い期間が出ていた可能性はあり、融資の条件は「今、その金融機関で」聞かないと分からない、ということは言えます。
築古を買う前に確かめる順番
- 構造と築年を確かめ、耐用年数の残りを出す:軽量鉄骨は骨格材の厚さまで
- 金融機関に「本部の基準で何年出るか」を聞く:複数に聞く。決め方が3パターンのどれかも分かる
- 出た期間ごとの返済額で収支を組む:満室の家賃ではなく、空室1〜2割を見込んだ家賃で。返済・固定資産税・管理費・修繕積立を引いてプラスか
- 診断書と修繕の見積もりを取る:築古は買った直後に出ていくお金が大きい。見積もりは指値の根拠にもなる
- 価格の相談をする:4で分かった修繕費を根拠に、売主側と価格を相談する。根拠のある数字は、売主も仲介会社も第三者に説明しやすい
- 正式に申し込む:ここで初めて本部の決裁。2で聞いた年数と違うことがある前提で
向く人・向かない人の分かれ目も書いておきます。築古で期間が短くても、「収支はトントンでよい。返済だけ進めて、完済後に売って利益を出す」という考え方で買う人はいます(サブリースの記事で触れた知人の戦略がこれです)。手残りが要らず、長く持てる人には合います。一方、次の物件のために毎月の手残りを貯める人には、期間の短い築古は合いません。どちらが正しいかではなく、自分の目的と期間が合っているかです。相続した実家を貸すように、借入がない築古なら、この話はそもそも関係ありません。
よくある質問
Q1. 耐用年数を超えた建物には融資が出ませんか?
出る金融機関はあります。経済的耐用年数で判定する金融機関や、一律の上限(10〜15年など)を置く金融機関です。「出るか」より「何年出るか」が問題で、短い期間でも収支が回るかを先に計算してください。
Q2. 木造の築25年アパートなら、融資期間は何年ですか?
法定耐用年数22年の残りはゼロなので、残存年数で見る金融機関では難しく、経済的耐用年数や一律上限の金融機関で10〜20年程度が出る例があります。ただし金融機関ごとに違うので、この数字で収支を組まず、必ず「本部の基準」を聞いてください。
Q3. 保証付き融資とプロパー融資はどちらがよいですか?
保証付きは保証料がかかる代わりに実績の薄い会社でも通りやすく、プロパーは金融機関の信用がある分、条件は交渉しやすいことがあります。初めての物件は保証付きから始まることが多く、実績が付くとプロパーの提案が来る、という順番がよくあります。どちらでも、期間を決めるのは本部です。
Q4. 土地の評価が高ければ、建物が古くても長く借りられますか?
土地の担保評価が大きい物件は、建物の耐用年数とは別の理由で期間が伸びることがあります。逆に、土砂災害警戒区域など担保評価が下がる要因があると、期間や金額が削られることがあります。ハザードマップは自治体のサイトで誰でも見られるので、検討の初めに確認してください。
出典
- 国税庁 確定申告書等作成コーナー「耐用年数(建物/建物附属設備)」 https://www.keisan.nta.go.jp/r6yokuaru/aoiroshinkoku/hitsuyokeihi/genkashokyakuhi/taiyonensutatemono.html
- e-Gov 法令検索「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」(昭和40年大蔵省令第15号)別表第一 https://laws.e-gov.go.jp/law/340M50000040015
※融資の期間・金利・可否は金融機関と時期で変わります。個別の条件は金融機関に直接確認してください。
まとめ
- 融資期間の土台は法定耐用年数の残り(木造22年・軽量鉄骨19/27年・RC47年)。決め方は残存・経済的耐用年数・一律上限の3パターンで、金融機関で違う
- 6,000万円・2.5%で、30年なら月23.7万円、10年なら56.6万円。期間が収支を決める
- 支店の「行けそう」は本部の決裁ではない。最初の打診で「本部の基準で何年か」を聞く
- 順番は、耐用年数の残り → 期間の確認 → 収支 → 診断・見積 → 指値 → 申込
検討した物件の融資が「行けそう」から「10年が限界」に変わるまでの経緯と、その日に何を考え、次にどう動くと決めたかは、note の連載「融資期間10年の壁|不動産賃貸経営 #8」(無料)に書いています。診断書の数字の読み方と、修繕の見積もりで指値を入れた話は「不動産賃貸経営 #7」(一部有料・490円)です。
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所有するアパートの実数と経緯はnote の連載に書いています。