結論:3つの道具は「効く相手」が違うので、先に空室の原因を突き止める
空室対策の道具は、広告料(AD)・フリーレント・賃料減額の3つです。ADは仲介会社に、フリーレントは入居希望者に、賃料減額はポータルサイトの検索に効きます。どれを使うかは「なぜ埋まらないか」で決まり、原因と合わない道具は、お金だけ出て空室が続きます。
この記事では、空室の原因を3段階に分ける方法、3つの道具の比較表、同じ「2か月分」でも費用の出方がどう違うか、所有するアパートでADを選んだときの判断、の順で書きます。
前提:空室の原因は3段階のどこかにある
部屋が決まるまでの流れは、検索で見つかる → 仲介会社が紹介する → 内見に来る → 申し込む、の順です。空室が続くときは、このどこかで止まっています。
- 検索に出てこない:ポータルサイトの絞り込み(「家賃○万円以下」「駅徒歩○分以内」)に入っていない。問い合わせ自体が少ない
- 仲介会社に紹介されない:業者間サイトに載っていない、または載っていても仲介会社が優先して案内する理由がない。問い合わせはあるのに内見が少ない
- 見に来るが決まらない:内見はあるのに申し込みが入らない。初期費用か、部屋そのもの(設備・状態)か、比較した競合に負けている
原因を見分ける材料は、管理会社に「問い合わせ数・内見数・申し込み数」を聞くこと(管理会社の選び方で書いた「報告の仕組み」です)と、自分の物件をポータルで検索してみることです。この3つの数字が無いと、どの道具を使うかは勘になります。
3つの道具の比較:誰に効いて、お金がどう出るか
| 道具 | 効く相手 | 向く原因 | お金の出方 | 副作用 |
|---|---|---|---|---|
| 広告料(AD) | 仲介会社 | 紹介されない | 決まったときだけ、仲介会社に家賃の1〜2か月分(地域差あり) | 入居希望者には見えないので、内見後に決まらない原因には効かない |
| フリーレント | 入居希望者 | 見に来るが決まらない(初期費用がネック) | 入居後の1〜2か月分の家賃が入らない | 短期解約の違約金とセットにしないと「フリーレントだけ使って退去」が起きる |
| 賃料減額 | ポータルの検索 | 検索に出てこない | 毎月、入居が続く限り。次の募集も下がった家賃が基準になる | 一度下げると戻しにくい。既存の入居者との差が生まれる |
広告料(AD)の仕組み
仲介会社が賃貸の仲介で受け取れる報酬には上限があり、宅地建物取引業法第46条と国土交通省の告示で、借主と貸主を合わせて家賃1か月分+消費税までと決まっています(詳しくは仲介手数料の上限の記事)。ADはこの報酬とは別に、貸主(大家)が「この物件の募集を特に頼む」という依頼に対して払う広告の費用です。仲介会社から見ると、決めたときの収入が増えるので、同じ条件の物件が並んだときに案内の優先順位が上がります。
注意点は2つ。ADは入居希望者には見えないこと(部屋の魅力は何も変わらない)。そして、仲介会社に見つけてもらえる状態(業者間サイトに載っている)が前提になることです。載っていなければ、ADを何か月出しても誰にも届きません。
フリーレントの仕組み
入居後の一定期間(1〜2か月が多い)の家賃を無料にする条件です。入居希望者の初期費用が下がるので、内見まで来た人の「決める」を後押しします。借りる側の見方はフリーレント・敷金礼金ゼロ物件の記事に書きましたが、貸主にとって大事なのは、短期で解約されたときにフリーレント分を返してもらう特約(短期解約違約金)を契約に入れることです。これが無いと、無料期間だけ住んで出ていく人を止められません。
賃料減額の仕組み
ポータルサイトの検索は「5万円以下」「5.5万円以下」のような境界で絞り込まれます。家賃が境界のすぐ上にあると、その条件で探す人の画面にそもそも出ません。賃料減額が効くのは、この境界をまたぐときです。境界をまたがない1,000円の値下げは、検索結果を変えないのに、入居が続く限り毎月の収入を減らします。
もう一つ。家賃は一度下げると、次の募集もその家賃が基準になり、既存の入居者から家賃交渉を受ける材料にもなります。3つの中でいちばん長く効く道具なので、いちばん最後に使うものだと考えています。
同じ「2か月分」でも、出ていく額は違う
家賃5万円の部屋で、3つの道具を比べます(計算の例です)。
| 道具 | 出ていく額 | いつ出るか |
|---|---|---|
| AD 2か月 | 10万円 | 決まったときに1回 |
| フリーレント 2か月 | 10万円(入ってこない家賃) | 入居直後の2か月 |
| 賃料 2,000円減額 | 年2.4万円 × 入居年数(4年なら9.6万円)+次の募集も4.8万円が基準 | 毎月、ずっと |
金額だけ見れば似ていますが、ADとフリーレントは「1回きり」、賃料減額は「ずっと」です。逆に、検索の境界をまたぐ減額で空室が3か月短くなるなら、15万円分の家賃が入るので減額のほうが得になることもあります。原因に合わせて選ぶ、というのはこういう計算です。
繁忙期の終わりに解約が重なったとき、ADを選んだ理由
所有するアパートで募集を出すとき、「3つのうちどれか」を実際に決めた場面があります。
実体験メモ
- いつ:2026年4月、繁忙期(1〜3月)が終わった直後
- どこで:広島県内に所有するアパート(2棟26世帯・取得1年目)。解約が2件重なり、空室が増えた
- やったこと:管理会社の提案は「フリーレント2か月+家電付き」。選んだのは広告料(AD)2か月。仲介会社には「必要ならフリーレント2か月に振り替えてよい」と伝えた
- なぜ:その少し前に、業者間サイトに空室の全部が載っていないことが分かっていた。入居希望者より先に、仲介会社に「決めたい物件」として見つけてもらう必要があった。原因は「見に来るが決まらない」ではなく「紹介されない」だと判断した
- 結果:その後、9月に管理の形を切り替え、空室は埋まった。ADだけの効果とは言い切れないので、1つの例として
- わかったこと:入居希望者に喜ばれるのはフリーレント。でも、そもそも紹介されていない物件にフリーレントを付けても届かない。「誰に効かせたいか」を先に決めると、道具は自然に決まる
本音を書くと、入居者に直接得をしてもらえるフリーレントを使いたい気持ちはありました。それでもADにしたのは、管理会社の客付けだけに頼れない、と判断したからです。空室対策の道具選びは、物件の話であると同時に「今の募集体制を信じられるか」の話でもあります。その後、管理の形そのものをサブリースに切り替えた経緯は、別の記事に書きました。
どれを使うかの判断の分かれ目
- 問い合わせが少ない → まずポータルで自分の物件を検索し、絞り込みの境界を見る。境界のすぐ上なら賃料減額を検討。境界から遠いなら写真と掲載内容を先に直す
- 問い合わせはあるが内見が少ない → 業者間サイトへの掲載を確認したうえでAD。載っていないならADより先に掲載
- 内見はあるが決まらない → 初期費用がネックならフリーレント(短期解約違約金とセット)。部屋の状態が原因なら、道具より先に設備・清掃
- 繁忙期の前(12月) → ADが効きやすい時期。仲介会社の頭の中に物件を入れておく
- 閑散期(5〜8月) → 道具を足しても動く人が少ない。長期化するなら、閑散期は条件を保ち、繁忙期前に一気に動かす考え方もある
どの道具も、管理会社と相談して決めるものです。ただ、提案をそのまま受けるのではなく「それは誰に効く提案ですか」と聞き返すと、原因の見立てが合っているかが分かります。
よくある質問
Q1. ADは何か月分が普通ですか?
1か月分が基本で、競合が多い時期や地域では2か月分という例もあります。地域差が大きいので、管理会社に「近隣の似た物件はどのくらい出していますか」と聞くのが早いです。多く出せば必ず決まるものではなく、仲介会社に届く状態(業者間サイトへの掲載)が先です。
Q2. フリーレントの短期解約違約金はどう決めますか?
「1年未満の解約はフリーレント分の家賃を支払う」のような特約を契約書に入れます。入居者にとって不利な特約は内容によって無効になることがあるので、金額はフリーレントで免除した分を上限に、期間と額をはっきり書くのが安全です。管理会社の契約書のひな形を確認してください。
Q3. 家賃を下げると、今の入居者にも下げないといけませんか?
自動的に下がることはありません。ただ、同じ建物で募集家賃が下がったことは、入居者が更新や家賃交渉のときに知る可能性があります。減額する前に「既存の入居者から相談が来たらどう答えるか」まで決めておくと、慌てずに済みます。
Q4. 敷金・礼金をゼロにするのは、どの道具と同じですか?
入居希望者の初期費用を下げるので、フリーレントと同じ「見に来るが決まらない」に効く道具です。敷金・礼金の仕組みのうち、礼金ゼロは貸主の収入が減り、敷金ゼロは退去時の精算リスクが貸主側に残ります。保証会社の加入と組み合わせるのが一般的です。
出典
- e-Gov 法令検索「宅地建物取引業法」(昭和27年法律第176号)第46条(報酬) https://laws.e-gov.go.jp/law/327AC1000000176
まとめ
- ADは仲介会社に、フリーレントは入居希望者に、賃料減額は検索に効く。道具より先に原因(検索に出ない/紹介されない/決まらない)を突き止める
- ADとフリーレントは1回きりの費用、賃料減額はずっと続く費用。減額は検索の境界をまたぐときだけ
- ADは業者間サイトに載っていることが前提。フリーレントは短期解約違約金とセット
- 管理会社の提案には「それは誰に効きますか」と聞き返す。最終的な条件は管理会社と相談して決める
解約が2件重なった日に何を考え、管理会社の提案に対してなぜADを選んだか、その後の募集がどう動いたか(経緯と数字)は、note の連載「管理会社に任せっぱなしはよくない|不動産賃貸経営 #6」(無料)に書いています。
あわせて読みたい
- フリーレント・敷金礼金ゼロ物件の仕組みと注意点|確認すべき2つの条件
- 賃貸の仲介手数料の相場と上限|上限は家賃1ヶ月分+税、無料・半額のからくり
- 家賃交渉は可能?通る交渉・断られる交渉の違いと言い方【例文つき】
- 賃貸契約の特約は全部有効?|無効になる条項の見分け方と有効になる3つの条件
- 賃貸の管理会社の選び方|連絡の速さ・業者間サイト・写真・報告の4点で見分ける
- サブリースを選ぶ前に確かめること|保証率・免責期間・解約条件と新法の説明義務
所有するアパートの実数と経緯はnote の連載に書いています。