結論:最大のデメリットは「更新の権利がない」こと。住み続けたいなら再契約の可否を契約前に聞く
定期借家契約のデメリットは、家賃でも設備でもなく期間が来たら確定的に終わるという一点に集約されます。普通の賃貸(普通借家)なら、貸主(大家)が出て行けと言うには借地借家法28条の「正当の事由」が必要です。定期借家にはその審査がありません。期間満了で終わる、それだけです。
そのうえで、定期借家で募集した経験から、借りる人が実際に損をしないための確認点を3つに絞ります。
- 再契約の見込みを、契約前に口頭ではなく理由つきで聞く。建替え予定があるのか、転勤中の持ち家を貸しているのか、理由によって再契約の現実味がまったく違います
- 契約書とは別に「事前説明の書面」を受け取ったかを確認する。これがないと、更新がない旨の定め自体が無効になります(借地借家法38条5項)
- 家賃の改定に関する特約が入っていないかを見る。特約があると、借地借家法32条の家賃減額請求ができなくなります(同条9項)
逆に、はじめから住む期間が決まっている人にとっては、条件のよい部屋を相場より通りやすく借りられる手段にもなります。分譲マンションの賃貸で定期借家が多い理由は分譲賃貸とは?普通の賃貸との違い・定期借家の注意点にも書きましたが、この記事では定期借家そのものを条文から整理します。
前提の整理:普通借家と定期借家はどこが違うのか
条文で比べると、違いははっきりしています(借地借家法26条・28条・38条。e-Gov法令検索で2026年9月20日に現行条文を確認)。
| 項目 | 普通借家 | 定期借家 |
|---|---|---|
| 期間が来たら | 貸主が期間満了の1年前〜6か月前に更新拒絶の通知をせず、または正当の事由がなければ、同じ条件で更新したものとみなされる(26条1項・28条) | 更新はなく、期間満了で終了する(38条1項) |
| 契約の方式 | 口頭でも成立しうる | 書面(または電磁的記録)でしなければならない(38条1項・2項) |
| 契約前の説明 | 宅建業者の重要事項説明 | 重説とは別に、貸主から「更新がなく期間満了で終了する」旨を記載した書面の交付と説明が必要(38条3項) |
| 1年未満の契約 | 期間の定めがないものとみなされる(29条1項) | 1年未満でも有効(38条1項後段) |
| 借主からの中途解約 | 契約の解約予告条項による | 原則できない。ただし居住用・床面積200㎡未満で一定の事情があれば可(38条7項) |
| 家賃の減額請求 | できる(32条) | 借賃改定の特約があると32条が適用されない(38条9項) |
表の3行目と6行目が、この記事でいちばん読んでほしい行です。順に説明します。
定期借家を見分ける2つの書面|どちらが欠けても意味が変わる
定期借家が成立するには、書面が2通必要です。
- ①契約書そのもの。「公正証書による等書面によって契約をするときに限り」とあり、公正証書でなくても書面であれば足ります。電磁的記録による契約も書面とみなされます(38条2項)
- ②事前説明の書面。契約前にあらかじめ、「この賃貸借は更新がなく、期間の満了により終了する」ことを記載した書面を交付して説明しなければなりません(38条3項)
ここで多くの人が誤解します。②は契約書とは別個の書面である必要があります。国土交通省の「定期建物賃貸借Q&A」も、事前説明は賃貸人自らが行うもので仲介業者の重要事項説明とは主体が異なり、重要事項説明を受けただけでは法定の事前説明を履行したことにはならない、としています(2026年9月20日確認)。
そして38条5項は、この説明をしなかったときは「契約の更新がないこととする旨の定め」は無効と定めています。定めだけが落ちるので、賃貸借契約そのものは残り、普通借家として扱われることになります。
ただし、自分の契約がこれに当たると読者が独断で判断しないでください。書面を受け取ったかどうかは証拠の問題で、署名した受領書が残っていることも多い。手元の書類一式を確認したうえで、管理会社または自治体の無料法律相談・法テラスに相談するのが正しい順番です。
期間が来たとき・途中で出たいとき、条文はどうなっているか
終了の通知は「1年前から6か月前まで」
契約期間が1年以上の定期借家では、貸主は期間満了の1年前から6か月前までの間(通知期間)に「期間の満了により終了する」旨を通知しなければ、終了を借主に対抗できません(38条6項)。うっかり通知が遅れた場合でも、通知した日から6か月を経過すれば終了を対抗できるので、「通知を忘れたからずっと住める」わけではありません。ここは誤解の多いところです。
借主から途中で解約できるのは限られた場合だけ
定期借家は期間を決めて貸す契約なので、借主からの中途解約は原則できません。例外が38条7項です。次の条件をすべて満たすときに限り、解約の申入れができ、申入れの日から1か月の経過で契約が終了します。
- 居住の用に供する建物であること
- 床面積(建物の一部を借りている場合はその部分)が200平方メートル未満であること
- 転勤、療養、親族の介護その他のやむを得ない事情により、建物を自己の生活の本拠として使用することが困難となったこと
この7項と6項に反する特約で借主に不利なものは無効です(38条8項)。つまり「中途解約は一切認めない」という特約を書かれていても、上の条件に当たる場合は解約できます。一方、上の条件に当たらない自己都合の引越しは、契約書の中途解約条項に従うことになります。普通借家の解約予告との違いは賃貸の退去連絡はいつまで?|解約予告・違約金・立会いの流れで整理しています。
家賃の改定特約があると、減額請求ができなくなる
見落とされやすいのが38条9項です。借賃の改定に係る特約がある場合、借地借家法32条(借賃増減請求権)は適用されません。32条は、周辺相場より不相当になったときに借主から減額を請求できる根拠条文です。定期借家で「2年目に家賃を◯円に改定する」といった特約が入っていると、この請求権が働かなくなります。更新料の考え方とあわせて、更新料とは?相場・地域差・払わないとどうなるかも読んでおくと総額で比べやすくなります。
貸主が定期借家にする3つの事情
定期借家は、貸主にとっても手間のかかる契約です。書面を2通用意し、事前説明をし、終了通知の時期を管理しなければならない。それでも選ぶのは、だいたい次のどれかの事情があるときです。どれに当たるかを見抜ければ、再契約できるかどうかの見込みが立ちます。
| 貸主の事情 | 募集に出るサイン | 再契約の見込み |
|---|---|---|
| 建替え・大規模改修の予定がある | 期間が3年・5年など中途半端。築年数が古い。近隣の同じ所有者の棟が空いている | 低い。期間は動かせないと考えたほうがよい |
| 転勤中の自宅を貸している(分譲マンション・戸建てに多い) | 期間が2〜3年。室内が生活仕様で設備がよい。家具や造作が残っている | 読みにくい。貸主の帰任時期しだい |
| 入居者を見極めたい(試し貸し) | 期間が1年。同じ建物の他の部屋は普通借家 | 比較的高い。問題なく住めば再契約の話が出やすい |
正直に書くと、3つめの「試し貸し」は借主から見ると気持ちのいい話ではありません。ただ、普通借家で貸すと途中で出てもらうのに正当事由が要るため、迷ったときに定期借家を選ぶ貸主がいるのは事実です。だからこそ「なぜ定期借家なのですか」と聞く価値がある。建替え予定なら正直に言ってくれますし、試し貸しなら言葉を濁します。その反応自体が判断材料になります。
なお、公的賃貸にも定期借家の仕組みを使った家賃の割安なプランがあります。URの家賃が下がる制度のうち一部は定期借家が条件になっているので、UR賃貸の家賃が下がる制度7つを比較|U35割・子育て割・近居割と定期借家の注意点もあわせて確認してください。
再契約を取りにいくときの順番
前提として、再契約は権利ではなく合意です。国土交通省のQ&Aも「賃貸人及び賃借人の双方で合意すれば、改めて再契約をし、引き続きその借家への居住を続けることができます」という書き方をしています。法律上の更新とはまったく別物なので、断られても争う筋はありません。そのうえで、取りにいくなら順番があります。
- 契約時に聞いておく。「再契約の可能性はありますか」「その場合の条件は」。この時点の答えが最も正直です
- 期間満了の1年前を過ぎたら、こちらから切り出す。貸主の終了通知は1年前から6か月前の間に来ます。通知が来る前に意思を伝えておくと、検討の余地が残ります
- 家賃・清掃・使い方で実績を作っておく。滞納がなく、共用部の使い方に問題がない入居者は、貸主にとって手放したくない相手です。ここは本当に効きます
- 再契約時の費用を確認する。再契約は新しい契約なので、事務手数料・火災保険・保証料が再びかかることがあります。更新料とは扱いが違う点に注意してください
- 断られた場合に備えて、6か月前から次を探し始める。終了通知が来てから動くと、繁忙期に重なって選択肢が減ります
向く人・向かない人
| 向く人 | 向かない人 |
|---|---|
| 転勤・進学・工事など、住む期間がはじめから決まっている | いつまで住むか決めていない。長く住むつもりがある |
| 期間限定でよいから設備や立地のよい部屋に住みたい | 子どもの学区を動かしたくない |
| 引越しの手間と費用を許容できる | 引越し費用を都合するのが難しい |
| 契約書と事前説明書面を自分で読める | 書類を読まずに署名しがち |
| 住み替え先を早めに探す習慣がある | 高齢で次の物件の審査に不安がある |
とくに注意してほしいのは最後の行です。契約したときは問題なく借りられても、数年後に同じ条件で借りられるとは限りません。年齢や収入の変化で次の審査が通りにくくなる可能性があるなら、その点も込みで期間を判断してください。
よくある質問
契約書に「定期借家」と書いてありません。普通借家ということですか
表題ではなく中身で判断します。「本契約は更新がなく、期間の満了により終了する」といった条項があるかどうかを見てください。加えて、契約書とは別の事前説明書面を受け取っているかも確認します。判断がつかない場合は、契約書一式を持って管理会社に「この契約は定期借家ですか」と直接聞くのがいちばん確実です。
定期借家は家賃が安いというのは本当ですか
一律に安いとは言えません。期間が限られる分だけ借り手が付きにくいので、家賃や初期費用を抑えて募集する例はあります。一方で、転勤中の分譲マンションのように設備がよく相場どおりで出る部屋もあります。公的な統計がないため、この記事では「安くなる場合がある」以上の断定はしません。同じエリアの普通借家と並べて比べてください。
期間満了で出るとき、引越し費用は貸主が出してくれますか
定期借家の期間満了による終了は正当事由の審査を経ないため、立退料の支払いが当然に発生するものではありません。普通借家の更新拒絶で立退料が問題になるのとは事情が違います。ただし、貸主の都合で期間より早く出てほしいと言われた場合は別の話になるので、そのときは条件を書面で示してもらってください。
事前説明を受けた記憶がありません。更新できますか
借地借家法38条5項は、事前説明をしなかったときは更新がないこととする旨の定めが無効になると定めています。その場合は普通借家として扱われることになります。ただし、実際にそう主張できるかは書面の有無や受領書の存在といった事実の問題です。自己判断で家賃の支払いを止めたり、退去を拒んだりしないでください。書類を揃えたうえで、管理会社、それでも折り合わなければ法テラスや自治体の無料法律相談で確認するのが安全な進め方です。
まとめ
- 定期借家の本質的なデメリットは、正当事由の審査なしに期間満了で確定的に終わること(借地借家法38条1項)
- 成立には契約書と、それとは別の事前説明書面の2通が必要。説明を欠いた場合、更新がない旨の定めは無効(38条3項・5項)
- 期間1年以上なら、貸主は満了の1年前〜6か月前に終了通知が必要。遅れても通知から6か月で対抗できる(38条6項)
- 借主の中途解約は、居住用・床面積200㎡未満・やむを得ない事情の3条件がそろえば申入れから1か月で終了(38条7項)
- 借賃改定の特約があると、32条の家賃減額請求ができなくなる(38条9項)
- 再契約は権利ではなく合意。契約時に「なぜ定期借家か」を聞いておくと見込みが立つ
ここに書いたのは条文と公的資料にもとづく一般的な説明です。個別の契約がどう扱われるかは契約書の記載と経緯によって変わります。最終的な判断は、契約書と事前説明書面を手元に置いたうえで管理会社・貸主、または専門の相談窓口に確認してください。
参照した条文・出典(2026年9月20日確認):借地借家法26条・28条・29条・32条・38条(e-Gov法令検索)/国土交通省「定期建物賃貸借Q&A」/国土交通省「定期賃貸住宅標準契約書」(平成30年3月版)